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第7話

 再びのトイレ休憩(本来の意味でのトイレ休憩だ)を挟んだ後、車内で行われたのはじゃんけん大会だった。  これは大いに盛り上がった。  というのも景品が豪華だったからだ。  景品は夜の宴会場で受け渡しがされるという。  貝塚も意気揚々とじゃんけんに参加したが、敢え無く撃沈した。仕方ない。昔からじゃんけんには滅法弱いのだ。  そんなこんなでバスはとある宿に到着した。  こぢんまりとしているが、趣のある温泉宿だ。  夕食は十九時から貸し切りの宴会場で行われる。  チェックインの際に館内案内とともに食事時間が記載された紙を貰い、乗客たちはそれぞれの部屋へと散った。  客室は中々広い和室だった。  畳の上に低床のダブルサイズのマットレスが置かれ、寝具がセットされている。布団の上げ下ろしを頼まずとも自由にゴロゴロできるというわけだ。  貝塚は荷物を下ろすと、そこにバフっと横たわった。  マットレスは絶妙なやわらかさで貝塚の体を包んでくれた。    少しウトウト居眠りをした後、大浴場へ行ってみた。  お湯はとろとろぬるぬるした温泉で気持ちいい。  体を洗いよく温まった貝塚は、備え付けの浴衣を着て、売店などをひやかした。  バスでの走行時間の割にはさほど遠方までは来ておらず、特に目新しい土産はなかった。  否、もしも良い土産があったとしても、こんなツアーに参加してきた、なんて話は友人には口が裂けても言えないだろう。  話したところで信じてもらえないだろうな、と考えるとなんだか可笑しくて、貝塚はひとり笑いを噛み殺した。  そうこうしている内に夕食の時間となった。  宴会場に行くと、広々とした畳敷きの会場に、座椅子と座卓が用意されていて、そこに美味しそうな料理が並んでいる。  先に来ていた恩田が、貝塚に気づき片手を挙げた。貝塚は彼の隣に座り、雑談をしながら食事をした。    アルコールはツアー料金に含まれていないため、各自で注文しなければならない。  貝塚は恩田とビールの酌をし合った。風呂上りにはやはり冷えたビールが美味い。  周囲のツアー客たちも銘銘で注文した飲み物を口にしていた。  だが、こういう宴会にありがちな酩酊客はひとりも居ない。男だらけのツアーなのに、皆粛粛としている。 「意外と皆さん呑まないんですね」  貝塚が首を傾げると、恩田が軽く笑った。 「そりゃそうですよ。呑みすぎて勃たないとか最悪ですもんね」 「……なるほど」  貝塚は納得して頷いた。    そうなのだ。  この後、じゃんけん大会の勝者には『景品』があるのだった。    宴もたけなわとなった頃、宴会場に添乗員の風見が姿を見せた。  まだ風呂に入っていないのか、スーツ姿のままだ。まぁ彼は仕事で来ているのだから当然か。 「皆さん、楽しまれてますか?」  爽やかな笑みで問われて、まばらな返事が起こる。  風見は頷き、 「お食事がお済みでしたら、どうぞステージの見える位置に椅子を動かしてください」  と客たちを促した。  ステージ、と彼が言うのは正面の一段高くなった場所のことだろう。  膳はその場に残して、全員が座椅子を持ってステージの周辺へと集まった。    風見がイケメン満開の笑顔で、よく通る声を響かせた。 「それでは、皆さんでお待ちかねのバスガイドを呼んでみましょうか」  子ども向けのショーの司会のようなことを言われたが、貝塚も他の客たちもノリノリで叫んだ。 「バスガイドさ~ん!!」  男たちの轟ぐ声を浴びて、袖から常盤が姿を見せた。  うおおおおおっ、と歓声が響く。  常盤が、バスガイドの恰好をしていたからだ。  ただのバスガイドではない。  女物の衣装だ。  上の服は昼間と同じだが、下がスラックスからスカートに変貌していた。  ぴったりと尻にフィットした、タイトなスカートだ。しかも短い。太ももの半分ぐらいまでしかない丈だ。そこから、ストッキングを履いた足がすんなり伸びている。   「うおっ、ガイドさん、似合うっス」 「やべぇ。足めっちゃ綺麗」 「エロいな~」  口々に賛辞の声が飛んだ。    常磐が照れたように微笑し、ありがとうございますと頭を下げる。  さらり、と揺れる横髪を耳に掛けて、常盤は乗客を見渡した。 「皆さまこんばんは」 「こんばんはー!」  子どものように男たちが応じる。声がぴったり揃っており、先ほどの風見への返事とは雲泥の差だ。     「料理はお楽しみいただけましたか?」 「はーい!」 「それでは次のおもてなしに移りますね。じゃんけん大会の景品を順にお渡しいたします」  常盤がポケットからメモ用紙を取り出し、それを開いた。   「では、手からまいります。右手を梶原さん、左手を迫田さんに使っていただきます」  常盤に呼ばれた二人が意気揚々とステージに上がる。  貝塚と同じく浴衣姿の彼らの股間に、常盤がおもむろに手を伸ばした。    そう。じゃんけん大会の景品として彼らは、常盤の手コキをゲットしたのだ。  常盤は左右の手を器用に動かして、彼らの牡を扱いた。  自社製品であるローションの説明も忘れない。温感ローションの特徴を解説しながら、くちゅくちゅと手を動かし、解放まで導いた。  手コキの次は足コキだ。  これは視覚的にシコかった。    足をゲットした客へと、常盤がストッキングを履いたままの足先にローションを(まぶ)して、それでコスコスと刺激し始めたのだ。    常盤の足のラインもエロいし、ローションでねとねとになったストッキングもエロかった。  おまけに大層気持ち良かったようで、足コキを受けた客は獣のような喘ぎを漏らしていた。  羨ましい。  ものすごく羨ましい。  そしてシコい。  貝塚のジュニアがむくむくと元気になってしまった。

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