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第37話

初めて会ったときに 色白で大きな瞳に赤くてかわいらしい唇に 小さい顔 細くてちいさい体で まるで女の子みたいだと思った。 ある冬の日。 お父さんから、新しいお母さんと弟ができるよと言われて本当はうれしくなんてなかった。 俺にとってお母さんは病気で亡くなったお母さん、ただ一人だし 新しいお母さんなんていらなかった。 でもお父さんが俺一人を育てるのに苦労していたのはわかっていたし、 仕事から遅く帰ってきても洗濯とか家事とかしているのを知っていたから あからさまに反対なんてできなかった。 付かず離れずで付き合えばいいか・・と割り切って新しい家族を迎えようと思っていた。 必要以上に関わらなければいいんだから・・・と。 「こんにちは」 「こんにちは」 目の前に現れたお父さんと同じくらいの年齢の女性と そのとなりに恥ずかしそうに並んで立っていた子を見て、自分の胸のなかで何かはじけたような気がした。 「南森朔です」 「川田憩生です」 声も甘ったるくてかわいらしい声だった。 単純に・・・ きれいな子だな って思った。 もっと見ていたい。そばで近くであの子の顔を見たい。 触りたいと思った。 あの甘ったるい声で俺の名前を呼んでほしいと思った。 4人で顔合わせという名の食事会をしてからすぐにお父さんは再婚した。 俺の通う小学校の国内で家を購入して憩生が転校生として同じ小学校にやってきた。 一つ下の学年に転入たころとても話題になっていた。 あの外見だったから女子からはジャニーズみたいだとか騒がれたりした。 なぜか、俺は憩生に誰も近づけたくなかった。 誰も触らせたくなかった・・・。 もう、あの時から憩生への執着はあったのかもしれない。 転校してからしばらくして同じ学年に仲のいい子ができたみたいでよく一緒に帰っているのを見かけた。 要くんって呼んでいる声がして 俺以外の名前を呼ぶことに心がざわざわして落ち着かなくて、そしてイライラしていた。 憩生の口から要という名前がでるたび、表面は平然としていたけれど内心はおもしろくなかった。 それに、要も憩生に気安くさわったり、何かにつけまとわりついていたから、俺は大嫌いだった。 小学生だった俺は、なんとなく要は憩生に、好意があるんじゃないかと感じていた。 友達という感情じゃない、それ以上のきもちがあるんじゃないかって、憩生をみる要の視線からなんとなく思っていた。 要と、友達になって天体観測に関心がでて、要の家に行くって聞いたときもなるべく自分も一緒にいくようにしていた。 要に何をされるかわからないって思っていた。 本当は要と一緒に天文部に入ることも、合宿に行くことも嫌だった。 俺が天体観測に誘ったり、関心を持ったのも憩生が好きだから一緒にいるための口実だった。 憩生と話をするための、一つのきっかけに過ぎなかった。 サンテラスに誘うのも星を見るためだけではなく、憩生と二人きりになりたかったからだ。 喘息で咳がとまらないときも、背中をさすってやりながら、中学生のころは、もっと憩生に触れたいと思うようになっていった。 好きだと思ったのはいつなのか、わからない。 初めてあったとき一目ぼれしていたのかもしれない。 自分の気持ちが、家族や友人に思う好きと違う好きなのだと気が付いて憩生を守りたい、そばにいたいと明確に思うようになったのは、中学になってからだと思う。 それまでも大切で大事な子に変わりはなかったが、明確に意識したのはそのころだった。 憩生が好きだと思う一方で、許されない想いなのはわかるし、弟であること、家族であること そして 憩生には普通の幸せがあるのだと思うと、 男の自分がそばにいるのはよくないと思った。 ましてや憩生が自分を受け入れてくれるのかもわからない。 その気持ちの一方で、憩生が欲しいと思う気持ちは止まらなくて リビングでうたたねしている憩生にキスをしそうになって、このままではいけないって思った。 きっとこのままだと憩生をめちゃくちゃにしちゃう。 だから憩生に似た人をもとめた。 中学、高校と憩生に少しでも似ていればそれだけでよかった。 憩生を抱いていると思えればよかった。それでもやっぱり本物を目の前にすればダミーなのだと感じてつらくなることも多かった。 自分がこれほど、人を求めているなんて初めてでどうしたらいいかわからなかった。 中学三年のとき、付き合っていた彼女にせがまれて、クリスマスイブにイルミネーションを見に行った。 塾が始まる前のすこしの時間だったから、急いで塾に行こうとしたとき、要と憩生が、バス停の前で並んでいるのが見えた。 要はベタベタ憩生の体とか腕とか触ってて、二人とも楽しそうに笑ってて、すごくイライラした。 むしゃくしゃして塾の授業も頭に入らなくて、感情の行き場を失った。 おれがこんなに苦しいのに、憩生には伝わらないと思うと、悲しくなって、夜中、憩生が寝ているとき、憩生の白いうなじにキスをした。 おれのものだっていう証をつけたかった。 憩生はきがつかなくて、色白の首筋にうっすら赤いをみては優越感にひたった。 憩生が俺を追いかけて同じ高校に進学したことも知っていた。 同じ学校だといいなってつい本音を言ってしまったけど、合格したときは本当にうれしかった。 自分の目の届く範囲に憩生がいてほしかった。 憩生への想いは年々強くなるのに、絶対にかなうことはないのだと思えば思うほど消えない思いをどうしたらいいのかわからなかった。 だからまた同じ憩生と似ている女の子を求めた。 でも本当に自分が求めている人じゃない。本当に欲しい人は手に入らないと余計思い知らされるだけだった。 正直に、伝えたらいいのかもしれないと思ったこともあった。 こんなに苦しくなるのなら一層のこと・・ でも、いざ目の前にすると大切すぎて傷付けなくなかった。 その葛藤が、とまらなかった。 憩生にもどう接したらいいかわからなくて、不自然に距離ができてしまったこともあった。 家族である自分から思いを伝えられたら、憩生は悩むだろう。 むしろ、このまま距離を広げて関わらない方がいい。 そう思うようになった。 そのせいか俺には複雑な表情をすることが多かったのに、要には屈託のない笑顔で話しけているのをみると、俺より要のほうがいいのかもしれないなんて思っていた。 要とも変わらず仲もいいし、おそらく要は憩生が好きなのだと思っていた。 だからあの日、 高校の夏の合宿のとき喘息発作で倒れたのを見つけたとき、俺が真っ先に見つけて抱きしめたのに、そのことを隠した。 おそらく、気を失う前に、同じ天文部の要に連絡したのだろう。 ほどなく要も駆けつけて、俺は要に、俺が来たことは言わないでほしい、要が助けたことにしてほしいと伝えてその場を去った。 入院して面会、にいったときも何も言わなかったから憩生はいまでも要が駆けつけたのだと思っていると思う。 高校でも要といることが多かった憩生に、要とどうなっているのか知りたかった。 知ったところでどうなるわけではないけれど、答えによっては、自分の気持ちも整理ができるのかもしれないと思った。 思い切ってサンテラスで星をみようと誘った。 ついうとうとしてうたたねをしていたら、眠ったと勘違いした憩生が、 自分のことを好きになってほしい、誰のものにもならないでと言われて抱きしめられた。 そのときに、限界だとおもった。このままめちゃくちゃにしそうだった。 押し倒して床に組み敷いて自分の欲望のまま、きれいな憩生をけがしてしまいたくなった。 取り返しのつかないことにならないうちに離れようと思った。 兄弟で、しかも男同士で、世間の目だって、両親だって、なんていうか。 そんな厳しい目に大切な人を合わせたくない。 きっと、離れたら大丈夫だっておもった。 憩生が普通の幸せを手にいれられるように、と。 だから家を出た。 結婚も、無理やりしなくてもよかった。 でも、おれがしないと憩生は考えないだろうと思った。 本当に、茉莉を幸せにしようと思ったんだ。 結婚して、家庭を設けて、幸せにすると決めていた。 憩生を、抱くまでは。 憩生をこの手に抱きしめて、甘い声を聞いて、やっぱり無理だと思った。 身代わりは身代わりで本物じゃない。 自分の求めている人じゃないって、結婚してから茉莉を抱くたび思って、だんだん、茉莉を抱けなくなってしまった。 似ているだけだ。 柔らかさも、声も、肌の質もちがう, 憩生じゃない。 そう感じるばかりで、茉莉を抱けなくなった。 茉莉と距離ができたのも、このことが原因の一つだと思う。 茉莉には、私を誰かの代わりにしないで、って泣かれた。 その時に この結婚も、もう限界だと思ったんだ。 結婚して半年後、 茉莉には、、ほかに好きな人がいる、離婚してほしいと伝えた。 茉莉は付き合い始めた時から本当は好きな人がいるんじゃないかって思っていたと、離婚に応じてくれた。

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