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 荒い息に乾いた唇が微かに動く 「   」  下さい 「何でだっ、どうしてだっ、」  上げた声の大きさに 虚ろだった翠也の焦点が一瞬合った 「浮気されて まともに抱かれもしない こんな手酷く扱われて   どうしてまだ 俺を欲しいと云うんだっ」  紅い唇の間から 皓い歯が覗く  笑みが  返された 「 貴方の  手が 優しいから 」  歯形の残る俺の指に 視線が絡む 「  貴方となら    畜生に 堕ち たいと  思ったから 」  枯れた喉に 唾を押し込む音がした 「   俺は 厭だ  」  其の厭を 俺が堕ちるのが厭だと受け取ったのか 翠也を堕としたく無いと受け取ったのかは定かでは無い  無いが 翠也は微笑んだ 「 僕の 内が厭わしい  なら 口に下さい  」  よた と 生まれたての小鹿の様に無様に体を起こし 翠也は頭を垂れる  殉教する信者の様な其の姿に 胸を突かれて涙が滲んだ  何故、 「  最後の一滴まで るりに遣ると云ったんだ」  滲む涙が 溢れる前に立ち上がる

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