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 甘い 匂い  目も眩む様な  着物から香る香等では無い  翠也の其れを鼻腔一杯に吸い込むと しっかりと嵌めた箍が外れ飛ぶのでは無いかと思う程の衝撃が脳を苛む 「 は ぁ」  首筋に顔を埋めたまま息を吐けば 翠也がびくりと肩を震わせる  寒さで震えているのでは無い腕が 俺の背中に回った 「卯太朗さん 」  微かな 涙声 「貴方を 愛しています」  何かが 心臓を締め上げた  呼吸を忘れ 先程の言葉を一音毎に繰り返す  今までの人生で 一番嬉しい言葉だと思う  締め上げられた胸の内に溢れる返す言葉を 云うのは容易かった  けれど 「  暖まったろう、」  そう云い 背中に回る腕を引き離す  二人の間に吹いた風の冷たさが 心の奥を凍らせるかの様だった  空を掻いた指先が震えた 「あ  」  上げられた声はぼんやりとしていて  其の切なさに思わず声が出た 「月が   」  掠れた けれど精一杯の思いを込めて

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