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 外套の裾を握ったるりの手を離させてから 翠也へと向かう 「   」 「急で すまないね」 「   」 「君の絵を見掛けるのを 楽しみにしているからね」 「   」  小さく 口が動く  行かないで  微かだったが 確かにそう読み取れた  たった一言が声に出して云う事が厭われる  人に聞かれるのを憚られる  そんな歪な関係 「月は常に美しいだろうね」  そう告げて背を向ける  良く涙を流す彼が 皆の前で泣いては居ないかと気に為ったが 俺は振り返る事が出来なかった

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