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 折りを見ては描きを繰り返しては居るが 翠也も今更俺の絵なんて受け取ってはくれないだろうと思うと筆は中々動かなかった  けれども と 一縷の願いを込めて描き続ける  何かの際に 彼に渡せるかもしれない と  画家として 安定し始めた頃の冬の日  翠也の訃報を知った  何日も泣き るりですら近寄れない程荒れた  そうした所で翠也が甦る筈も無いと云うのに  俺には泣く資格なんか無いと云うのに  其の傍らに居て暖めて遣れていれば風邪を拗らせる事も無かっただろうかと 馬鹿な事ばかり考えて居た  傍らに居る勇気も無く  忘れる事も出来ず  後を追う事もしないで 俺はただ描き続けた  やがて るりが独り立ちした頃 翠也との約束の絵を仕上げ 其れを最後の絵として筆を折った  此の絵を仕上げてしまえば もう他に何も描きたいとは思わなかったから

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