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「先生」  呼ばれて振り返る 「御待たせしました」 「いや  今回も又 無理を云ったね」  そう云うと 父から画廊を継いだ奥野の息子は苦笑した 「又 先生に筆を持って欲しいですからね 何だってしますよ」  食えない顔で笑い 脇に挟んだ荷物を此方に差し出した 「しつこいなぁ 俺はもう描かないよ」 「いやいやっ此の最高傑作も良いですが 先生はまだ描けますよっ」  そう食い下がる奥野を置いて 荷物を包んでいた布を取り払う  顕れた翠  包まれる一羽の霍公鳥  翠也が自室に置いていた あの絵に相違無かった 「あ  っ」  鼻の奥に痛みが走り 視界がぼやける 「其れで宜しいですか、」 「あぁ 間違いない」 「良かった 公に出た事の無い絵だから ずっと自宅に有って 仕舞い込まれていたらしいです」  そうか と返して 翠也の筆遣いの良く分かる部分を撫でた  此れで 全て揃った  翠也の描いた物全て  俺以外の人間の目に晒さなくとも済むのだと思うと 長年の肩の荷が降りる様だった

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