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第1話

 君の口から紡がれる真っ直ぐな言葉をまた、青い夢物語をまた、僕に教えて欲しいんだ。  何度も唱えた儚い望みを、僕はまた、心の中で呟いた。  君と離れて、愛する人を失って、何年になるだろう。  普段は仕事で気が紛れるけれど、離れた時期――クリスマスになると、突然君が恋しくなる。  愛と幸福で満ち溢れる街の中で、僕は今でも、いるはずのない君の姿を探し続けている。聞こえるはずのない、低く沁み渡る君の声を探し続けている。 「会いたいよ。また僕に、あの夢を語ってよ、遥果(はるか)ぁ……」  思わず零した言葉は、白い息となって吐き出したそばから消えていった。その息はまるで僕みたいだった。 「俺、小説家になりたいんだ」  君が初めてその夢を語ったのは、中学二年生の秋だった。 「小説家? そっか、遥果、国語得意だからねぇ」  僕はその時、特に考えもせずに相槌を打った。だから君は、少し不満気に口を尖らせていた。 「適当に聞き流すなよ。俺、本気だぜ?」 「えっ、本気なの? 茨の道じゃない、それ」  驚いて僕が言っても、君は揺るぎない気持ちを持っていた。 「分かってるよ、そんなの。でも、なりたいんだ。こんな小説が書きたいんだ、俺は」  そう言いながら君が差し出した本は、思春期の揺れる心と若い情熱を描いた青春小説。映画化もされた、人気作品だった。 「元々俺は本が好きだったんだけど、これに出会って感動して……何ていうか、あっ、こんな考え方も世の中にはあるんだなあって思って。すうって心を重くしてたものが、溶けていった気がしてさ」  しみじみと、噛み締めるように呟いた君。その声は僕の耳に心地よく響いた。 「やりたいって気持ちだけじゃあやっていけない世界なのは、ちゃんと分かってるよ。だけど……どうしても挑戦したい」  静かな声色の中に、強い決意が垣間見えた。その時の君は何だか、輝いているように思えた。  ああ、何だか綺麗だなあ、僕はそう感じた。きっと僕はこの時『どうしても挑戦したい』と言える君の強さに、惚れ込んでしまったんだろう。  君の言葉はどんな時でも、誰かと真摯に向き合っていた。半端な誤魔化しも、耳障りの良いお世辞も含まない、真っ直ぐな言葉だ。僕はそれが大好きだった。  それからの僕の人生にはいつだって、真ん中に君がいた。君が行くからっていう理由で、高校も大学も選んだ。  君の夢を一緒に追いかけたかった。僕には、創る手伝いはできないけれど、君を支えて隣で君の夢を見たかった。  それは紛れもない恋心だった。それを君は気付きもせず、ただひたすらに夢を追いかけていた。  だけど、君の夢を隣で追いかけられるならそれで幸せだと思っていた。  ――そんな安穏とした幸福な日々は、僕が終わらせてしまった。
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