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第37話

「せっかくあなたとグレイグ隊長を離したのにまた仲良くなっているし、その上恋人でしょう? グレイグ隊長も憎たらしいですが、それ以上にあなたが目障りだ。でも殺すだけではつまらない。幸運なことに俺は呪術が扱える。だから、あなたの大切な人を殺そうと思ったんです」  そんな理由で己の愛した人を傷つけようとするなんて、アレックスには理解できない。 「しかし、なぜお前は二種類の魔力を持っているんだ?」  魔力が感知できるアレックスだから気づいたことだ。騎士としてニコライが魔術を使用していたときと、呪術に込められた魔力はまったくの別物だった。 「なぜそれが分かったのかとても気になるんですけど。呪術は、命を使うんです。他人の魔力だったり、生贄だったりするんですが、大抵他者から奪ったものがほとんどなので。だから術者本人とは違う魔力になってしまう。ああ、そうか。あなたは他人の魔力を感知できるんですね。そのおかげで今まで俺は見つからなかったのか……」  呪術の正体を聞いて、禁術になった理由を理解した。  術を相殺するためには膨大な魔力が必要になるだけではなく、使用時に人を害する可能性があり、術を強化するためにさらに多くの犠牲が必要になるのだ。  床の円陣から感じる魔力の波動にはグレイグのものが混ざっている。ニコライの言っていることは正しいのだ。 「まだあなたのことをどうするか決めていないので、しばらくここで大人しくしておいてください」 「殺さないのか?」 「最終的にはそうなると思いますけど」  一度言葉を切ると、ニコライの笑みに昏いものが混じる。 「苦しんでからの方が俺としても楽しいので。それでは、仕事に行ってきます」  その言葉で現在が朝であることを察する。それが分かったとしても、アレックスが王城へ行くことは叶わない。  ニコライが鉄の扉の向こうへと姿を消すと、ごろりと石の床に大の字に寝そべる。  どのくらい監禁されるのかは分からない。無事に出られる可能性は極端に少ない。  ニコライから得た情報を頭の中で整理しようとしてもなかなかまとまらない。彼が異父弟だと知ってしまったせいなのか、冷静になれない。  アレックスが王族の血筋であると聞いても違和感しかない。見た目はそうでもないかもしれないが、性格は獅子のように気が荒く短気だ。  国王とそこまで仲は良くないけれど、王は騎士団総団長である。そう考えると似ていなくはないのかもしれない。  グレイグを害したのは腹立たしいけれど、ニコライの語った過去を想像すると強く責めることができない。  おそらく母親にはずいぶんと酷いことを言われているようであったし、その母を毒殺で亡くしている。幼心が傷つかないはずがない。  ニコライが語っていないことはいくつかあるはずだ。ただそれをアレックスに教える気はないのだろう。それは彼がこうなってしまった根本的な部分であることに違いない。  誰であろうと、自身以外の考えを読むことなどできはしないのだ。 (俺は、迷っているんだろうな)  最後には殺すと言われても、ニコライの今までの様子を知っているアレックスには本気で抵抗することができそうにない。  一時的にとはいえ、彼はアレックスの部下であったのだ。  自分がグレイグ以外のことで揺れることになろうとは思いもしなかった。人生何があるか分からないものだと、嘆息した。

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