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第40話

 その様子をぼんやりと見ていたアレックスはグレイグに抱き寄せられた。 「アレックス、大丈夫か?」  返事をしようとしたけれど、痛めた喉のせいで発音が上手くできない。軽く咳き込むアレックスに気づくと、グレイグが顎を持ち上げて口付けた。  こんなときに何をしているのかと驚愕して暴れようとすると、ねじ込まれた舌とともに弱い治癒の魔力が流れ込んでくる。  グレイグも治癒がお世辞にも得意とはいえなかったけれど、このくらいの痛みなら取り除ける術を使えたのだ  しばらくすると、喉の痛みが消えた。  ニコライが憎悪の表情で見ている。離れる唇を追いそうになるのを堪えた。 「すまない」  感謝を伝えると、グレイグは満足そうにしていた。 「俺は何ともない。だが……」  状況の変化に頭がついて行かず、苦痛を堪えるニコライをアレックスは呆然と見返した。 「何なんですか。バークレイ隊長、あなた何をしたんですか」  こんなときでも丁寧な口調で話すニコライに感心していると、男の右肩からじわじわと黒い痣が広がっていく。顔まで到達したところで止まると、苦々しくニコライは項垂れる。 「……呪詛返しなんて、いつしたんですか!?」 「なんだそれ」  初めて聞く単語に首を傾げていると、グレイグが耳に触れてきた。 「守り石が砕けている」 「そんな眉唾ものが、俺の呪術を跳ね返したってことですか!?」  城下町でも恋人たちが贈り合っている守り石は、確かに気休め程度のものだ。そんな効力があるとは驚きである。 「眉唾じゃないんだな、これが」  マキシムが声を発すると、説明を始める。 「貴族の間で交換される石は高価なものだし、彼が着けていたのは金剛石だ。金剛石はふたりが誓いを破らない限り、持ち主を守る。危機があれば力を発揮するんだ」  平民の間では知らされていない情報だった。 「貴族ではないきみと、アレックスには気休めのお守り程度の認識しかないだろうね」  今は砕けて何もない耳元に触れる。  そんなものを渡していたグレイグにも驚きである。  話している間に狼を制圧した騎士たちがニコライの周囲を取り囲んだ。 「呪詛返しを受けたニコライはもう無力化されたのと同じだ。連れて行け」  マキシムの静かな命令に従い、騎士たちはニコライを捕縛した。  連れて行かれる男を静かに見ていると、マキシムがにこりと優しく微笑む。 「今日のところはグレイグのところに泊まるといい。明日以降、身体が平気なら聴取するから、そのつもりでいてね」  呪詛返しで身体には何も影響がないとはいえ、監禁されていたのは事実だ。マキシムの気遣いに感謝しながら小さく返事をする。  グレイグの肩を借りて立ち上がろうとしても、魔力がいくらか失われた身体はだるくて、支えがなければ歩けそうもなかった。  それを察したグレイグが無言でアレックスに背を向けて、乗れと視線で促した。抱かれて運ばれるよりはましかと思い、大人しく手を伸ばした。  しばらく救援に来てくれた騎士たちに囲まれていろいろ会話を交わしたけれど、グレイグは一度も口を開かなかった。  騎士たちに礼を言って別れても静かな沈黙は変わらない。 「グレイグ?」  無言を貫く男が何を考えているのかまるで分らない。グレイグの反応を窺いながら、アシュクロフト邸までの道を黙って背負われていた。

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