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第41話

 二度目となる屋敷の中に入る。以前会った老執事に迎えられて、そのまま寝室へと連れて行かれた。  部屋は以前招かれた部屋とは比べ物にならないくらい広いのに、どこか殺風景だった。広いベッドと、クローゼット、机くらいしかない。必要最低限なものしかない部屋がグレイグらしいなと思う。  部屋の中には彼の香りが満ちていて胸の内が落ち着かない。居心地悪い思いを知られないように平静でいようとする。  何も気づかないグレイグに連れられてベッドに寝かされると大きな手が首筋に触れた。 「跡が残っている」  ニコライに絞められた首が痣になっていると初めて気づく。痛ましい表情で触れるグレイグを見て、ようやく日常に戻ってきたのだと実感する。  胸の奥から湧く安堵と、グレイグへの思いがアレックスを突き動かす。 「すまなかった」  グレイグは何に対する謝罪なのか分からない様子で、静かにアレックスを見る。 「本当は俺が謝ることじゃないんだが、このまま再会できずに死ぬんじゃないかと思ったとき、つまらない喧嘩をしたことをすごく後悔したんだ」 「いや、あれは俺が悪い。だから謝るな」  アレックスに階段から突き落とされた話をしなかったことはグレイグに非がある。それでも喧嘩別れしたことだけはものすごく後悔したのだ。 だが、それはグレイグも同じであった。 「まさかあの後、アレックスが行方不明になるとは思わなかった」  互いにあった後悔を吐露して、アレックスはようやく伝えたい言葉を紡ぐ。 「グレイグ、お前が好きだ」  グレイグは目を見開いて固まり、そして砂糖菓子のように甘い笑みを浮かべる。 「ようやく、お前の気持ちが聞けた」 「結構前から好きだったんだけどな。なぜか言おうと思ってもタイミング悪く邪魔されたんだ」  少し拗ねた口調のアレックスを宥めるように触れるグレイグに満足すると、確認のために問いかける。 「どうして、あの場所が分かったんだ? ニコライもお前に疑われていることを不思議がっていたが、なぜだ?」  アレックスはエドガーの呪いのおかげでニコライの所在を知った。しかし、今までグレイグがニコライを疑っていたような素振りはなかった。  グレイグはベッドの端に座り直すと静かに語り始める。 「匂いだ。三回あいつに背中から襲われたが、そのときに嗅いだ匂いに覚えがあった」  アレックスは屋敷の周囲に花が植わっていたことを思い出し、その匂いがニコライに移ったのだろうと仮説を立てた。  グレイグもその話を聞いて頷く。  ニコライからは最近まで花の匂いがしなかったが、屋敷を頻繁に出入りするようになり匂いが体に移ってしまった。それにグレイグが気づいたのだ。  しかし、それだけでアレックスを攫った犯人だとは思わなかった。  感知能力はそれほど高くないグレイグではあったが、アレックスの魔力にだけには敏感である。ある日を境にニコライからアレックスの気配が感じられるようになった。  その時期はアレックスが行方不明になったのと同じだったのである。

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