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第8話

 リオは続けた。 「それに今、魔族が天王様に害を与えれば、天界どころか他の世界もこぞって魔界を攻めに来るぞ。なんせ、天災の被害を受けているのは天界だけじゃないんだしな。……ま、戦争をしかけるつもりなら別だけどな」  それはないだろ、とリオは笑った。  すっかり寛ぎつつあるリオに、シィタはここぞとばかりに姿勢を正して向き直った。 「一緒についてきてくれて、ありがとう。リオ」 「なんだよ。いきなり……」  シィタの真摯な態度に、リオは面を食らった。だが、何を言っているのかわからないではない。  シィタの純粋さはよく知っていた。それこそ、幼い頃から一緒にいた友なのだから、知らないわけがなかった。だが、改めてそう言われると照れくさいものがある。 「まったく、ありがとうじゃ足りないっての。だいたいなぁ、お前が魔界に行くって言わなければ、こんなことにはならなかったんだよ」 「う……。でも、天王様からの命だったし。それに一度は異世界にも行ってみたかったし……」  しゅん、とシィタの長い耳が垂れるように下がった。それに連動して、眉もハの字を作り、困った表情を浮かべていた。  可愛かった。  昔から純粋で、優しくて、素直で、いつも陽だまりのような笑顔で微笑んでくれるシィタ。別段、美しい顔立ちではないのに、今のように、素直に表れる困った表情は愛らしく映った。青年へと成長した今でも、それは変わらなかった。  リオはたまらなく、シィタを愛しいと感じていた。それも、今日だけではない。彼は常日頃から、シィタを愛しく思っていた。  リオはシィタに懸想しているのだ。たとえ、それが自然の摂理に反していたとしても、リオはシィタが好きだった。  なぜ、同性を愛してしまったのかはわからない。精悍でたくましく育ち、その上端整な顔つきに生まれたリオの、天界中の女性からの人気は絶大だった。愛の告白を受けた数も、一度や二度ではない。それなのに、リオはシィタを愛してしまったのだ。  しかしながら、天界で同性を愛することは、別段おかしなことではなかった。先代の天王が愛した者も同性で、永遠の愛を誓ったことを皆から祝福されたといわれている。リオが抱く恋心も、別段隠す必要などなかった。  シィタを愛した恋敵が、敬愛する天王でなければ。  天王はシィタを寵愛していた。もちろん、楽師として傍に置いたのは、『母樹』から生まれた尊い存在であるシィタを護るためである。しかし、傍に置きたい一番の理由は他にあった。  友人たちはリオの想い人が誰であるかなど、とうに気づいている。しかし、リオは天王に、そしてシィタ自身に自分の恋心を悟られるわけにはいかなかった。  リオは自分の恋心に気づいたと同時に、天王には敵わないとそうそうに諦めていた。  そして彼は歳が変わる事に膨らむ感情を抑えながら、これから先もシィタの友人として傍いようと心に決めていた。 「ま、せいぜい大人しくしてろ。それから、移動するときは俺の傍から絶対離れるなよ。無事に天界に帰りたければな」 「もう子どもじゃないんだから大丈夫だって。それに、いくらこの城が広くても迷子になんかならないよ」 「何言ってやがる。方向音痴のくせに」 「それは子どものときの話だろぉ!」  たまらなく愛しい存在は、長い耳の先を真っ赤にして怒りを露わにする。しかしそれすら可愛い。  平穏な、いつものやり取りに、ついつい楽しくてリオは忘れていた。  ここが魔界であるということを。

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