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やさしいひと 62

「なんか、いろいろとすみません。そのバイトも」 「気にしなくていいよ」  改めてお礼を告げても、あっさりとした態度は変わらなかった。 「まぁ、でも、ああいうバイトは高校卒業してからにしときな。浅海くんは頭の回転が速いから、向いてるとは思うけど」 「そんなことないと思いますけど」 「ある、ある。会話が嫌な方向に進みそうになったら、いつもさりげなく誘導するでしょ。馬鹿じゃできないよ」  こうもさらりと言い当てられると、バツが悪い。気づかれていたのか。 「……すみません」 「謝れとは言ってないよ。客は気分よく喋れるだろうねってだけで」  苦笑まじりに応じてから、八瀬はこうも続けた。 「そのわりに、自分のことは適当そうなのが、俺からすると不思議だけど」  なにが不思議なのだろうと思っているうちに、答えが返ってきた。 「いくらでも、もっとうまくやれるでしょ」 「うまく、ですか?」 「うん。たとえば、俺が坊ちゃんの話出したとき、浅海くん自分は聞かないほうがいい話題だなって判断したら、するっと変えるでしょ。でも、対象が自分だと、顔とか、お父さんのこととか、そういうよっぽど触れられたくないこと以外だったらなにもしないから」  できるんだから、やったら楽だろうに、と続いた後半はあまり耳に入ってこなかった。八瀬がこちらを向いていないことにほっとした。それでも習性のような笑顔を張り付けないと、問いかけられなかった。

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