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キミの囁きに、震える。 【1】

 ゆらり――――影が、揺らぐ。  オレンジ色の夕陽が色濃く射し込む、部室の一角。そこで、夕陽に滲むようにゆらりと揺れているのは、ふたつの影。  夕闇に溶けゆくのをただ待つだけの、しんと静まったその空間に、少し高めの色めいた声が空気を震わせながら響いていく。 「――気持ちいいか? 頬が上気してきたな」 「……ぁ……んっ」  それは、俺の大好きな声。  幼なじみの土岐奏人《とき かなと》が、艶やかな声とともにユニフォーム越しに与えてくるのは、胸元の敏感な部分への執拗な刺激だ。 「ふぁ……あ、そこっ……あぁっ」 「ん、イイ声だ」  いつからか、他の部員が帰った後の部室で行われるようになったふたりだけの秘密の遊戯は、幼い頃から土岐をずっと好きだった俺を舞い上がらせ、蕩けさせる至福の時間。  ついさっきまで部員同士がにぎやかに騒ぎ、喋っていた部室は、それまでとは真逆な淫らな色をまとい、とろりと濃い空気で満たされ始めていた。 「武田」  チョコレート色のアンダーリムの眼鏡が良く似合う秀麗な面差しが俺の名を呼び、髪に指を通し、ゆっくりと後ろに梳いていく。  反対側の手で頬を撫で、耳朶に吐息を降らせながら何度もそこを食まれれば、既に熱くなっていた身体がさらに熱を持ってしまう。 「んっ……土岐ぃ」 「目も潤んできたな。ユニフォーム越しの感触でも、ちゃんと感じたのか? けど、やっぱり直《じか》に触れてほしいだろう?」  しっとりと鼓膜を震わせた囁きは、意地悪で愉しげな響きを宿し、くいっと曲げた親指が肌をつうっと滑りながらユニフォームをたくし上げていく。  あぁ、早く。早く、もっと先に進んで。  俺の好きな部分に、早く来て。  露わになっていく肌にひやりとした外気が広がり、捲り上がったユニフォームの中で動く土岐の指が、待ちかねた場所に到達した。 「お前の可愛いところ、今日も存分に可愛がってやろうな?」  とろりとした土岐の声と同時に、ぷっくりと膨れた胸の粒の下部に爪先がそろりとかかった。 「ひゃっ! あんっ……えっ? なんで?」  甘く誘う声とともに、やっと乳首の先端に触れてくれたその親指は、けれど指の腹で固くしこった部分をピンと撫で上げただけで、すぐに離れていってしまうんだ。  え、どうして? 俺、こんなに待ってたのに。それだけしか触ってくんねぇのは、なぜ? 「土岐、なんで?」  どうして触れてくれないのかと不安な気持ちで見上げれば、いつもの無表情から冷たい声が零れ落ちる。 「武田? お前、俺が触れる前から、もうこんなに固く尖らせてるのか? なら、俺が触る必要は、もうないな」 「え? あ、やだぁ! やだよっ。触ってっ……触って、そこっ」  土岐の二の腕にすがりつき、素直に『触って』と懇願すれば。 「ふっ、そんなに好きか? 俺に、こうされるのが」  冷たかった声に甘い響きが取って代わり、乳首の上で土岐の親指がくにゅりと円を描く。 「ああぁっ……んっ、好きっ。好きぃっ」  それっ、好き。  やっと与えられた、待ちかねた刺激。  その歓喜に、じんと痺れた脳から理性は吹っ飛び、開いたままの口からは本能の叫びだけが放たれる。  もっと! もっと、くれよっ。

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