5 / 135

キミの視線に、乱される。 【1】

「……ううぅ……痛ぇよー、痛いぃ。めちゃ腰だるいわぁ。大丈夫か、俺」 「あっ、武田くーん! おっはよー!」 「あ、秋田。おいっすー」  腰をさすりながらヨロヨロと入った校門の内側で、同級生の秋田正親《あきた まさちか》が大きく手を振ってる。  いつもながら、こちらまで笑顔になれる、気持ちのいい明るさ、元気さだ。  ふわふわの茶髪に、パッチリと大きめの鳶色の瞳。小柄で愛らしい見た目に違《たが》わず、可愛いものが大好き。料理と裁縫も得意。  いわゆるオトメンてヤツだが、俺と同じ剣道場で稽古に励む有段者でもある。コイツも、土岐や俺とは幼なじみだ。 「珍しいねぇ、武田くんがこの時間に登校してるなんて。今朝は、バスケ部の朝練なかったの? というか、心なしか元気がなさそうだけど大丈夫?」 「あー、うん。ちょっと身体だるくてさー。今朝の自主練は休んだんだー」 「えっ、武田くんが? 元気だけが取り柄の武田くんが、調子悪いのっ? ちょ、大丈夫? 保健室行く? チカ、ついてったげる!」 「いや、秋田。心配してくれんのは嬉しいけどさ。それ、フツーにディスってるよな。『元気だけが取り柄』って……」  ひどくね? まぁ、秋田の表情がめちゃめちゃ心配そうだから許すけどぉ。 「えー、だって元気じゃない武田くんなんて、炭酸が抜けたコーラみたいで、そもそも存在してる意味がないと思うんだよねー。だから、チカが保健室まで付き添ってあげるね。心配だもんっ」 「秋田ぁ……心配だもん、の前の台詞が……つか、保健室くらい、ひとりで行けるって」  もう既にデカい湿布を腰に貼ってあるから、保健室行く必要はないけどな。 「そう? でも無理しちゃ駄目だよ? ――あっ、土岐くんだ! 土岐くーん、おはよっ!」 ――ドクンッ! 「おはよう、秋田――――武田も」 ――ドクン! ドクンッ! 「あ……おおお、おはようほほっ」  あ、やべっ。動揺しすぎて、語尾がゴリラ風になっちまった。  だって、やべーんだよ。秋田と挨拶を交わした後に、一拍おいて俺に向けられた土岐の流し目が。  めちゃめちゃ色っぽい。やばい、やばい。もう俺、直立不動だよー。 「武田?」  そんで、俺の真ん前まで来たソイツの手が、すーって伸びてくるんだぜ? 「お前、今朝の自主練に来てなかったな。どうした? 風邪でもひいたか?」  長い指が、サラリと前髪を分けて額に触れてくる。  耳あたりのいいテノールが紡ぐ穏やかな声色と、優しい指使い。それが、今、自分だけに向けられてる。  そう思ったら、昇降口に充満してる生徒たちのざわめきが一瞬で俺の周りから消え去って、土岐しか見えなくなった。 「あっ、うん! だっ、大丈夫! 俺、今朝、寝ぼけてベッドから落ちちゃってさ。思いっきり腰打っちまったから、自主練は休んだんだ。でも部活は出るから! 絶対、出るから!」 「そうか、わかった。じゃあ、放課後な」 「うん! 放課後!」  あぁ、もう行っちゃうのか?  昨日はあんなに優しかったのに、今日の土岐はこんなにも素っ気ない。 「……仕方ない、か」  だって、夢だもんな。  勝手にあんな、土岐と色んなことヤっちゃう、どエロい夢見て……。そんな夢を見たことに勝手にびっくりしてベッドから落っこちるような馬鹿、なんだもんなー。俺ってば。  なぁ、土岐? 俺、どんだけ長い間、お前に片想いしてんだろうなぁ……。

ともだちにシェアしよう!