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恋のバカンスは、予言通りにはいかない!?【好きと言える自信 #1】

「……あー、もう朝練の時間が来ちまったよぉ」  夏って、夜が明けるの、めっちゃ早くね?  昨夜、次に土岐と会ったら何をどう話せばいいか悩んでたはずなのに、いつの間にかサクーッと寝てて、気づけば朝になってたとかさー。どういうこと?  俺、たっぷりひと晩は悩むつもりだったのに、通学時間しか悩めなかったし。しかもバスの揺れが気持ち良くて、それもほぼ寝てたしぃ。  恋のお悩み時間もロクに与えてくれないなんてさ。もしかして恋の神様って、俺にだけ意地悪? 「――おーい、武田ぁ」 「おっ、高階《たかしな》じゃん。なんだぁ?」  とぼとぼと昇降口に向けて歩いてると、後ろから高階の声が飛んできた。隣には、高階の従兄弟の一色《いっしき》の姿も見える。  高階郁水《たかしな いくみ》と一色基矢《いっしき もとや》。このふたりも俺や土岐が所属してるバスケ部の部員で、秋田も含めた幼稚舎からの幼なじみだ。 「武田。お前、今年も行くか? 基矢んちのビーチ」 「あっ、もうそんな時期かぁ。うん、行く行く!」  俺ら幼なじみメンバーは、毎年夏になると一色の家が神奈川に持ってるプライベートビーチに遊びに行くのが恒例なんだ。あ、でも土岐は行くんかな? 「高階。その誘い、もう土岐にした? アイツ、行くっつってたか?」 「や、まだだ。朝練で聞こうと思って」 「じゃあ、俺が聞く! それでいいだろ?」 「あ? 別にいいけど」  よし、これで土岐に話しかける話題ができたぜ。昨日は変な空気のまんま別れちゃったけど、皆で行く海の話から入れば大丈夫だよな?  うん、絶対に大丈夫だ。頑張れ、俺! 「あっ、居た! 土岐ぃ!」  バスケットアリーナに勇んで入った俺は、コートの一番端に目指す姿を見つけた。そこに向かって一目散に駆け出す。 「おーい! 土ぉ岐ぃぃ……って、あれ? あっ、アイツ、また来てる!」  走りながら、土岐と一緒に居るヤツが誰なのかを確認し、思わず声をあげてしまった。  俺の土岐にべったりと張りついてるヤツの名前は、宇佐美柊《うさみ しゅう》。中等科の三年だ。  バスケ部の練習は、基本、中高別々に行われるんだけど、朝練だけは自主練ということもあって中高合同なんだ。  だから、中学バスケ部の宇佐美が土岐と一緒に練習しててもおかしくないんだけど、俺の中では違和感ありまくりのヤキモチ度、120%だ。  なんせアイツ、土岐が中学バスケ部のキャプテンだった時からめっちゃ土岐に懐いてて、事あるごとに『土岐先輩、土岐先輩』って連呼して纏わりついてくるんだもん。  ポジションが土岐と同じSG(シューティングガード)だからか、土岐も目をかけて色々と親身に教えちゃってて、俺的には面白くない。  艶のあるサラサラの黒髪と、同じ色のクリクリした瞳が小動物系で、あどけない可愛さで押してきてるとこも、なんかムカつくっ。  でも、恋人の俺の登場で、それも終わりだ。ざまぁ、宇佐美! 「おっす、土岐! あのさ、俺とパス練習やってくんね?」 「あ? 見てわからないのか? 俺は今、宇佐美のシュート練習につき合ってる。あっちに常陸《ひたち》が居るから、お前は常陸とパス練しとけ」 「うっ……」  ソッコー断られたぁ! 俺、恋人なのに! くっ、悔しいっ。  しかも、俺が土岐にバッサリとヤラレた瞬間、宇佐美のヤツ、笑った。ニヤッて! すげぇ嬉しそうに、土岐の後ろで笑ってた!  余計、悔しいっ! 「おーい、武田ぁ」 「んだよ、常陸ぃ」 「お前、やる気あんのかぁ? なんだ、このヘナチョコなパスはぁ」 「あるある、やる気、めっちゃあるぅー。つか、お前のパスのほうがヘナチョコだわ。虫が止まるんじゃね? ボールにぃ」  常陸とビミョーな会話を繰り広げつつ、ダッシュしながらのパスという高度な練習の真っ最中、俺の視線はずっと土岐を追いかけてる。  宇佐美のヤツ、シュート練習にかこつけて土岐を独り占めとか羨ま……いや、ムカつく。  おまけにフォームの修正をしてもらってるから、土岐と密着して肩とか腕とか触れられてて、めっちゃ羨ま……いやいや、すげぇムカつくっ。  ヤキモチ度、200%に上昇したぜ! 「武田っ! 馬鹿、止まれ!」  え? ――ガッシャーンッ! 「うわっ!」  常陸の声を聞いたと思った時には、もう全身に激しい衝撃を受けていた。それで、なぜか身体が宙を飛んでる。  嘘、なんでっ? ――ドサッ!  いってぇー! めっちゃ身体痛いー! 「武田っ?」 「おい、大丈夫か?」  常陸と一色の声が聞こえたけど、横向きに床に着地して転がった身体が痛くて、うんうんと頷きだけ返しておく。  えーと、なんで俺、こんなことになってんだっけ?  うーん……さっき、すげー衝撃の後に身体が浮いてぇ……うお? 俺の周り、ボールだらけだ。もしかして、ボールケースにぶつかったんかな? 「どけ! 武田、大丈夫かっ?」  土岐の声だ。  大好きな声の元を目線で辿ると、俺を上から覗き込んでた皆の隙間から土岐が身体を割り込ませて、俺の横にしゃがんだ。  んん? でも、なんで土岐がここに来てるん? さっきまでコートの向こう側に居たはずなのに。 「おい、返事しろっ。声も出せないのか?」  ふふっ。けど、いつもの無表情が崩れてる。  こんな、必死っつーか、慌ててるみたいな土岐なんて、すげぇ珍しい。 「土岐?」  なんか変だ。おかしい。そう思ったら、手を伸ばしていた。  人目も場所も、何も考えずに。

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