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恋のバカンスは、予言通りにはいかない!?【好きと言える自信 #4】

「武田。昼、食いに行こう」 「あっ、うん、行く! ちょい待ってて!」  昼休み。土岐が、昼飯の誘いにきてくれた。小ぶりのトートバッグを片手に提げてるところを見ると、今日も土岐は弁当持参のようだ。  俺はたいてい食堂のランチか、売店でパンか弁当を買うパターンだから、財布だけ持って慌てて教室を出た。 「先に売店寄るぞ」 「うん」  この土岐のひと言で、今日は食堂じゃなく、他の場所で一緒に食いたいって言ってるんだとわかる。  えーとじゃあ、前に高階に勧められたフルーツサンドを買ってみようかな。あと、生ハムチーズサンド。あれもめちゃ旨いんだよー。  今日はどこで食うのかな。屋上かな? それとも中庭かな?  どこでもいいけどな。土岐とふたりで過ごせるなら――。 「え? ここで食うん?」  売店でお目当てのサンドイッチを二種類とも買えてホクホクしながら土岐と中庭を歩いていたはずが、気づけばいつの間にか中庭を突っ切っていて、この場所まで来ていた。 「あぁ、入れよ」 「うん」  当たり前のように鍵を開けて、『先に入れ』と俺に顎で示した相手に素直に頷き、その中に入る。ちょっとだけ首を傾げながら。 「えーと、なんで、部室?」  土岐に促されて入ったのは、バスケ部の部室だった。雨が降ってるわけでもないのに、なんで中庭を通りすぎたんだろ? 「なぁ、晴れてるし外で食ったほうが気持ちいいんじゃね? なんで部室なん?」 「たまにはいいだろ?」 ――カチャ  え? なんで、鍵……。 「来いよ」 「あっ」  『鍵かけたのは、なんで?』と聞こうとした言葉は言えないまま、俺の腕を引っ張った土岐によって部室の端に置かれてるベンチまで連れていかれた。 「それ、貸せ」  そうして、手に提げていたサンドイッチが入った袋も奪われ――。 「えっ? なっ、何っ?」  次の瞬間、制服のシャツが勢いよく捲られていた。 「おとなしくしろ……あぁ、やっぱり。お前、湿布貼ってないじゃないか」 「あ……」  強引にシャツを捲り上げた土岐の視線は、俺の脇腹に注がれてる。 「しかも、こんなに内出血させて……ちゃんと冷やさなかったのか?」 「えと、冷やしたよ? 冷やしたけど……」  冷やしてる途中で宇佐美に話しかけられて氷を身体から離しちゃってた、なんて言えない。 「まぁいい。ほら、貼ってやるからシャツ持っとけ」 「うん……ひゃっ、冷たっ」  何もかもお見通しの土岐が持参してた湿布を貼ってくれたけど、その冷たさに思わず声があがる。 「冷却湿布なんだから冷たいのは当たり前だ。それより、怪我した身体は大事にしろ」 「うん、ごめ……あっ、んっ」  湿布を貼ってくれた手がそのまま腰に回り、気遣いの言葉をくれた土岐の唇が、俺のそれにしっとりと重なってきた。 「あまり心配させるな」  優しい言葉を、熱い吐息に乗せながら。 「ごめん」  口づけと吐息。その両方とともに落とされた『あまり心配させるな』という声音は、気遣いと慈しみが満ちていて。  俺に対する土岐の気持ちがそこにハッキリと見えることに、泣きたいほどの嬉しさと、同時に怖さも感じてしまうんだ。 「舌、もっと出せ」 「んっ……ふぁ……ぁっ」  絡められた舌が、口内で艶めかしい動きを展開していく。  こんなの、今まで知らなかった。  ねっとりと絡み合う熱源。そこだけが、別の生き物のように俺の知らない水音が立てられていくんだ。淫らに、執拗に。  待って? 置いてかないで?  そんな風に言いたくなるほどに、その感覚だけがひとり歩きしてる。  翻弄されて。  追い上げられて。   絡め取られる。  けれど、そうされればされるほど、怖くなってくる。 「武田、もっとだ」 「はっ……ぁ……土岐ぃ」  俺で、いいの?  土岐は、こんなに良い男なのに。  その土岐が、想ってくれるに値する存在で、俺は本当にいられてるのかな?  『お前の恋人は俺だ』って、自信持って言っていいんかな?  わかんない。何にも、わかんなくなってきたよ……。

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