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恋のバカンスは、予言通りにはいかない!?【好きと言える自信 #5】

 わかんない。なんにも。俺にわかるのは、頭ん中を色んな感情が吹き荒れてて、その渦に飲み込まれそうだってこと。  あと、わかってたけど、見ないふりしてたことも実はある。  何の特技もない平凡で駄目な俺なんかじゃ、土岐には釣り合わないってこと。宇佐美に言われるまでもない。ちゃんと気づいてたよ。  両想いになれる、ずっと前から。  けど、恋する気持ちはどうしても止められなかった。消せなかった。  そして、俺をかき抱くこの手からは、もう離れられない。土岐の邪魔してるって言われても離したくない。  俺なんかでいいの? って思うけど。本心では、離れたいなんて欠片も思わないんだよ。  だって、好きだから。本当に本当に、大好きだから。  土岐にずっと好きでいてもらえる自信なんて、ない。  でも、俺は土岐しか見えないし、土岐のことだけを好きでいられる自信なら、たんまりある。  ぐちゃぐちゃに乱れてる胸の内で、唯一それだけが、ずっと変わらずに持ち続けてる俺の純粋な想いだから。  だから、どれだけ不釣り合いでも離れられないし、離したくない。  そのために、どれだけ痛い思いをすることになっても、絶対に離さないんだ。 「一色から『朝、保健室が閉まってた』って聞いたから、まさかと思って確認したんだが。本当に湿布も貼らずに放置してたとはな。全く、お前は」 「う……すんません。氷で冷やしたし、湿布はもう別にいいかなと思って……」  『本当はもっと続けたいけど』って名残惜しげにキスを終えた土岐が呆れたように向けてきた視線に、フルーツサンドを持ったまま首をすくめて縮こまった。  そっか。一色から聞いたんか。  朝、高階と保健室に向かったはいいけど、まだ始業前で養護の先生は来てなくて。後で湿布取りに来るかっつってたところに、一色が俺らふたりの荷物を持ってきてくれたんだ。  で、そのまま保健室には行きそびれてた。自分の駄目なとこ考えてたら、そんな気になんてなれなくて――。 「今日、部活は休むか見学にしとけよ」 「えっ、大丈夫だよ。これくらい、たいしたこと……」 「駄目だ。無理するな。お前がボールケースにぶつかっていくのが見えた時、俺がどれだけ焦ったか。お前、知らないだろ?」 「え?」  ぶつかった時、って……え? 『見えた』って言った?  だってあの時、土岐はコートの向こう側で宇佐美を指導してたよ? 「え? あん時、お前、向こう向いてた、はず……」 「見てた」 「へ?」 「ずっと見てた。お前を。目に見える範囲にいれば、俺はいつだってお前の姿を探してしまうからな」 「……っ」  土岐? なぁ、ほんと? それ、ほんと?  俺がずっとお前のこと見てたあの時、お前も俺のこと見ててくれたん?  嘘みたいだ。そんな夢みたいなこと、ほんとに……。 「お前が宙を飛ぶようにして転んだのを見た瞬間、駆け出してたぞ。後から気づいて謝ったが、話しかけてきてた宇佐美の肩を突き飛ばして走り出してた」 「え? 宇佐美を?」 「あぁ。そのせいか、なぜかアイツも追いかけてきて俺を引きとめようとするものだから、本気で鬱陶しくて。つい邪険に怒鳴って振り払ってしまったんだ。まぁ、それも後でまとめて謝っておいたが」 「あ……そ、そうなん? あん時、そんなことが……」  えーと、なんとなくだけど……鈍い俺でも今の話でピンときた気がするぞ。それってつまり……。 「あー、なんかごめん。俺が不注意で転んだせいで、お前らの練習の邪魔したんだよな」 「は? なんでお前が謝る? 宇佐美に悪いことをしたのは俺だろ」 「あ、いや。なんつうか、その……なんとなく俺にも責任あるような? あははっ」  訝しげに眉をひそめた土岐に、へらりと笑ってみせ、ごまかす。  もしかして、だけど。せっかく憧れの土岐を独り占め出来て、いい気分で練習してたのに、俺のせいでそれが台無しになったから。  だから、宇佐美はあんなに俺に攻撃的だったのかな? そういや、それっぽいことも色々言ってたし。  その気持ち、わかるな。俺だって、土岐と過ごしてるこの時間を誰かに邪魔されたら、やだもん。誰が相手でも、すごくすごく嫌だって思っちゃうもん。 「武田? 今、咀嚼してるそのフルーツサンド、早く飲み込め」 「へっ?」 「お前、今ものすごく可愛い表情《かお》してるから、キスしたくなった。だから、早く飲み込め」  えっ? 可愛い顔って、何っ? てゆうか、お前の顔が既に超至近距離なんですが?  わわっ、唇舐められた! 待って? いったい、ナニが起きてんだ? わけがわかんねぇ! * 「――武田、急げ」 「あっ、うん」  顔は相変わらずの無表情だけど、ちょっとだけ焦りを滲ませた声をかけてきた土岐が部室に鍵をかけ、俺とともに廊下を駆け出す。  ふふっ。おかしいよ、これ。  普段、俺に『廊下は走るな。そこで、はしゃぐな』って注意してくる土岐が、今は俺と一緒になって廊下を走ってる。  「少し長居しすぎたな」なんて、ボソッとこぼしながら。  長居しすぎた原因って、フルーツサンド食ってたあん時のキスが異様に長かったから、だと思うんだけどなー。  そのことには触れない土岐が、なんかおかしくて――――少しだけ可愛くて。 「へへっ」  ちょっと、にやける。 「良かった! 間に合ったぁ」  途中、怪我した脇腹が少し痛んだ俺に気づいた土岐が、走るスピードを緩めてくれた。けど、全速力で走らなくても、余裕で午後の授業に間に合った。 「一色家のビーチに行く件、俺からも一色に返事しておく」  朝、色々あって聞き損ねてたビーチの件も、忘れずにちゃんと聞けた。当然のように、もちろん俺と一緒に行くって言ってくれたことが、すっげぇ嬉しい。 「うん、わかった。んじゃ、後でなっ」 「あぁ、それと」  教室に入ろうと背中を向けた俺の腕が引かれ、土岐の声が近くなった。 「お前、部活に出てもいいが、絶対に無理はするな。いいか? 誰かとはしゃぐのも厳禁だからな」 「あ……ふふっ。うん、わかった。はしゃがないよ。おとなしくしてる。へへっ」  土岐の心配性ぶりに、思わず笑っちまった。苦笑じゃなく、本気の笑い。  「笑い事じゃないぞ。ちゃんとわかってるのか?」って眉をひそめて叱られたけど、俺の笑いはその後も止まらなかった。  すっげぇ、幸せな気分だったから。  「また部室で昼飯食おう」って、離れ際に言ってくれた土岐の目が甘やかに緩んでいたのも、めちゃ嬉しかったから。

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