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第1話 それでも貴方は僕の神様だ。

あぁ聞いて下さい神様。 僕はどうしてもどうしても“彼”に会いたいのです。 だからどうか、どうか 「その扉を開けて下さい!」  もう土下座をするようなかたちで地べたに座り、天を仰ぐように両手を合わせて頼み込む。  すると神様はにこりと人の良い笑みで。 「絶対にダメ」  あぁなんて無情なお言葉、僕は涙を溢れんばかりに、いや実際に溢れまくって濡れてびしゃびしゃになった地べたに手をついた。 「そんな殺生な!」 「何度頼まれてもダメなものはダメだよ魔法使いのおチビちゃん」  年期のある木製の洒落た机で、頬杖をついてトドメの言葉を下さる神様。  いくらなんでも酷すぎる。もう126回はこうしてお願いしていると言うのに。 「あとね。私は神様じゃなくて、ただの異世界の“扉の番人”だよ」  これ言うの126回目なんだけどね。と、その人はにこりと、やっぱり人の良い笑みを浮かべる。 「それを言うなら僕だっておチビちゃんじゃないです。だって僕、今年で250歳なんですから。……これ言うの126回目ですよ?」 「うん。どうやら私達は相当ボケてきてるのかも知れないね。お互い歳をとった」 「そんな適当な事言って誤魔化さないで下さいよ」  ムッとして言うとその人、もとい扉の番人さんはクスクスと笑って、その銀髪の髪をくるくると指で弄ぶ。  そして立ち上り、扉と机、そして僕らしかいない何処までも真っ白な空間を、ゆっくりと歩きだした。 「君は、どんなに歳をとっても、変わらず可愛い容姿だね。頬を膨らませた顔なんて、本当聞き分けのない子供のように愛らしいよ」 「それ誉めてないですよね? それに番人さんだっていつ来ても歳をとらず若いままじゃないですか」  そう、そうなのだ。この銀髪の何処か不思議な番人さんは20代の若さをいつまでも保っている。  僕がここに通うようになってから、もう何年も何年もたっている筈なのに。 「それはほら、私はもう死なないからさ」  綺麗に微笑んで、番人さんは僕に近付くと、頬にそっと触れた。 「何度も言ってるけど、もう一度あそこへ行ったら、君は君の世界に戻って来れなくなるよ。……本当にいいのかい?」  いつになく真剣な瞳に、僕は頬に触れた手を強く握った。 「何度も言ってる。僕がいるべき場所は“彼”の隣なんだ」  だから、どうか、どうかお願いします“神様”。と、その手を両手でしっかりと握り、拝むように、不安で震える声を振り絞り、懇願する。 「……ごめん。私にはもう“無理だ”」  ぼそりと呟かれた言葉は、僕に向けられたものだと思った。 「私の負けだよおチビちゃん。いや“エル”」  そう言って、僕の帽子を僅かにずらして、番人さんはおでこにキスを落とす。 「私は君と違って魔法は使えないからね。これはただのおまじないさ」  そして立ち上り、両手を広げる。 「さぁ選ぶといい! この八つ扉のうちのどれかが君が求める“彼”の世界だ!」  僕は帽子をしっかりと被り直して、八つの扉の前に立つ。 「どれを選んでも必ず、君には試練が待っている。そして答えはその先に」 「わかっているよ。二度目だもの」  僕は決意を固め、目の前のやはり真っ白な扉へと向かう。 (僕は必ず“彼”の元へ行く。だから扉を当てるんじゃない) ドアノブに手をかけ、右へと回す。 「繋げるんだ彼の元へ!」  扉を開くと眩い光が僕を包むように襲って、それでも負けじと足を踏み出した。 「なっ!?」  そこは空の上だった。  踏み出した足元を見ればずっとずっと遠くに広がる緑の大地。 「ぎゃーー!!」  気付いた時には時すでに遅し、僕の身体は頭から落下していく。助けを求めるように空を見上げ手を伸ばせば、扉を閉めながら頑張って、と頬笑む番人さん。  あぁ扉の番人さん。僕の神様。貴方はやっぱり最後まで無情なお人です。  それでも貴方は“僕の神様”だ。

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