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第130話 父の上京

 そんなある日、辰雄が電話をかけてきた。 「今度の母さんの月命日に合わせて、東京へ行くよ。その時、打たないか? 前回、結局打てなかったろう?」 「そうだね」  そうは答えたものの、どこで打つべきかと、中也は悩んだ。家へ連れて来れば、白秋を紹介せざるを得ない。今二人を引き合わせるのは、さすがにタイミングが悪いだろう。それに、もし康成と辰雄の間に確執でもあったなら、自分と康成が対面した時の二の舞になりかねない。 「じゃあ、俺の行きつけの碁会所へ行こうか」 「碁会所か」  辰雄は、残念そうな声を出した。息子の住まいを見たかったに違いなかった。 「今、友達とルームシェアしてるんだ。友達は家で仕事をしているから、邪魔をすると悪いし」  仕方なくそう誤魔化したものの、またもや中也は悩んだ。マロンへ連れて行けば、白秋との噂が、辰雄の耳に入る危険がある。困った中也は、カノコに相談した。実は彼女もまた、二人の仲に早い時期から気付いていたのだという。見て見ぬふりをしてくれていた彼女に、中也は密かに感謝していた。 「なるほど。親御さんにはなかなか言い出しにくいでしょうね」  事情を聞いたカノコは、深刻に頷いた。 「それなら、お客さんたちには箝口令を敷いておくわ。だから、安心してうちに来てちょうだい」 「ありがとうございます」  中也はほっとした。

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