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第4話 導く男

執事として一生を終える。朔哉にとってこれ以上の罰はない。 躯を捧げられなくても、心を暁宏に捧げられる。 人生の先が見えるのはつまらないのかもしれない。 しかし、日々の仕事を淡々と過ごして老いていくのも、ひとつの生き方ではないだろうか。 大きな幸運に巡り会えなくても、日常にだってきらめく幸せは潜んでいる。 緒方家の洋館の窓から見える空は毎日変わる。 昨日より青が深い。ゆうべより、赤が濃い、とわずかな色合いの変化に気づいたのは、館が己を守る箱だと朔哉が意識するようになってからだ。 箱から見える景色は『下界』だった。 生涯通じて、ただ見つめるだけの場所。 しかしそう思っていたのは、朔哉だけだった。 庭の桜が散りはじめ、花びらが暁宏のティーカップに浮かんだ瞬間。 精悍な男が館を訪れた。 鷹のような鋭い目をした男だった。 その男は、朔哉を色鮮やかな世界へと導いた。 暁宏ひとりでは、連れていけなかった世界へ。

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