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第9話 透明な仮面2

「僕を……すみません。わたくしを選んでいただきありがとうございます。わたくしは西川家を継いで一年も経たぬ若輩者です。……秀一郎さまの……」 続く言葉が出てこない。口上には決まりの言葉と、その場で変える言葉がある。 儀式の日から一年ほどが経った。 あのときは拒まれたが、いつか、いつの日か、暁宏が抱いてくれるかもしれない。 「朔哉、かわいそうに」と暁宏が言って、ふたりで初夜を過ごす。 求めることはしなかったが、来るかもしれない夜のために朔哉は躯をつくりあげていた。 それももう、永遠に叶わぬ願いとなった。 「秀一郎さまの精をこの躯で受け止められるとは、この上ない悦びです。わたくしは執事と申しましても、儀式を終えていない未熟者です。あいにく、秀一郎さまにご満足いただけるような手練手管は持ち合わせておりません。しかし、ゆ、唯一の……わたくしの美点は……」 口にすれば、視界が涙で滲みそうになる。それでも、やめなかった。 父の遺した言葉が、朔哉を奮い立たせる。 『拒絶したくなるような客人ならば、一層、白々しいくらい派手な口上を考えるんだ。仮面を厚くすれば、おまえの涙は誰にも気づかれない。そんなこともできなければ……朔哉。おまえの魂は、男たちに握りつぶされる』 「わたくしの躯には、主の癖が刻み込まれておりません。わたくしをはじめて抱くのは、秀一郎さま、あなたでございます。通じ合うことを教えるように抱いても、ひと夜の相手だと乱暴に抱いても、どちらでも良いのです。わたくしは、男がどれだけ優しいかも荒々しいかも知りません。ですから、秀一郎さま。どうか、秀一郎さまのお好きなように。思うままに、わたくしの躯を扱いください」

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