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第11話 過去

「ああ。俺は、きみの父親を抱いた」 驚きのあまりなにも答えられない。秀一郎にゆっくりと背を撫でられた。 さきほどまでの淫靡な様子はなく、幼子をあやすような仕草だった。 「高校生の頃だったな。女を好きになったことがない、と父に打ち明けたんだよ。『試してみるか』と目隠しされて、車である館まで連れられてきた。この館だよ。部屋に行くと、丈の短いジャケットを着た執事がいた……きみより歳はもっと上だった。俺の初めての人だ。抱いているあいだ、名前で呼びたいと言ったら下の名前だけ教えてくれた」 「さ、さようでございましたか。……わたくしは……先代と比べて……い、至らぬ点がありますが……ん、あ……んっ」 襟元から覗く首筋のやわらかいところに歯を立てられた。一瞬の痛みに声を上げ、秀一郎が羽織るバスローブの胸元をつかんだ。噛まれ熱を帯びた朔哉の敏感なところに秀一郎の舌がさまよう。音を立てて、何度もきつく吸われる。 絶え間ない快感に身をよじろうとしたら、後頭部をつかまれた。朔哉の黒髪を梳く秀一郎の手はどこまでも優しかった。 しかし秀一郎の舌と唇は、朔哉自身が知らぬ淫らな姿を暴き立てるような執拗な動きだった。朔哉はきつく、きつく、秀一郎の手を握った。 「や、ん……んっ、あ、あ」 声を押し殺したい。唇を噛んで耐えたいのに、甘い声が漏れ出てしまう。 恥じらいつつも感じていることを隠し切れない。吐息交じりに全身で秀一郎を求めているようだった。 「は、あぁ……つ、う……ん」 「ん……朔哉くん、んっ……もっと、自信をもっていい。きみはこんなにも感じやすいんだから」 秀一郎の唇が離れていく。 安堵し息を整えていると、抱き上げられた。ベッドに降ろされる。そのまま、押し倒された。

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