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第22話 儀式の最後

「……はい。わかっていました」 一年前のあの日に拒まれたというのに、朔哉はずっと夢を見ていた。 現実を認めれば道を失うことになる。父が歩いた道、祖父が歩いた道、昔から西川家の男たちが歩んできた道から朔哉だけが外れていく。 生まれてきてから躯に刻まれた教えを捨て去ることなど、できなかった。 いままで築き上げてきた自分そのものを崩していくような行為だからだ。 「抱かれるなんていう願いは永遠に叶わない……そう思うと、きみが不憫でたまらなかった……。早くこの手で教えたかった。肌の温かさを。愛される悦びを。朔哉くん……きみがまだ俺を愛していないのはわかってる。だけど俺といっしょに来てほしい。ここにいたら、暁宏のそばにいたらきみはつらい思いをする。暁宏は……近いうちに婚約する」 「え……」 「一年くらい前からだ。儀式があった日には、暁宏には好きな人がいたんだ」 「暁宏さまが僕を拒んだのは……僕が、かわいそうだからじゃなかったのか……」 「朔哉くん。それはちがうよ。愛情がないのに抱き合うのはおかしいって、暁宏はちゃんとわかっていたんだ。朔哉くん。きみはあのとき、心から抱かれたかったのか?」 朔哉は首を振った。 二十歳になれば暁宏に抱かれる。 それは朔哉にとって何の疑問も持たない当たり前のことだった。 ……あの日を過ぎても、暁宏と通じ合うことを考えていたけれどそれも本当に心からの願いだったんだろうか。 何も言わずにいる朔哉を秀一郎は見つめた。優しくていねいに朔哉の髪を梳く。カーテンの隙間から、白い朝の光が入り込んでくる。 「秀一郎さまは、儀式についてすべてわかっているんですよね?」 「ああ。俺がいっしょに行く。暁宏の代わりに」 朝焼けのうちに向かう場所がある。 西川家の墓標へ。

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