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第3話
振り返ると唯人は遠ざかっていく男の背中を無表情で見つめていた。
俺より頭二つ分高い身長、筋肉に覆われたしなやかな肉体。
癖のある長めの黒髪の下にある顔は、これでもかというくらい整っていた。
唯人ってアルファの見本みたいな男だよな。
同じアルファの俺でさえ、つい羨望の眼差しを送ってしまう男を俺は無遠慮に見つめた。
「何?惚れ直した?」
「馬鹿言うなよ」
軽口を叩く唯人を睨むと、唯人は肩を竦めた。
「和希。今日は午後授業なかったよな。学食で飯食おうぜ」
そう言って唯人は極上の笑みを浮かべる。
大学に入学し、唯人と知り合ってから三年。
俺は何故かこいつに懐かれていた。
過去には首相経験者を輩出し、今でもその名を経済界に轟かせる歴史ある一族の末裔のアルファ。
それが唯人だった。
俺も一応父親は会社を経営していたが、唯人のところと比べると格が違う。
唯人の周りにはいつも日本有数の金持ち一族のアルファや、美人のオメガなどがお近づきになりたいと列をなしていた。
わざわざ俺みたいなのにくっついてきて、仲良くなろうとする唯人の気持ちはよく分からなかったが、もしかしたら唯人なりに今の環境を窮屈に感じ、俺みたいな庶民的なアルファと居る方が楽な部分もあるのかもしれないと考えていた。
唯人と連れ立って、教室から出ようとすると声をかけられた。
振り返ると先ほど耐えていたオメガの女の子だった。
「あのね。私、今日で大学通うの最後なの。本当は来るのすっごく怖かった。私に起きたことを思い出すのも嫌だったし」
そこまで話すと、彼女は俯いた。
白く華奢なうなじには痛々しい噛み痕が残っていた。
番にされたのか。
ヒート中のオメガのうなじをアルファが噛むことにより、番契約が成される。
噛まれたオメガは、ヒート時に番となったアルファ以外に触れられると、生理的嫌悪を催し、酷いときは死に至るケースもある。
それに比べ、アルファは番契約を結んだ後も、好きな相手と触れ合える。それこそ何人でも番を作ることが可能なのだ。
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