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第11話

「意外と器用じゃん」 「俺はやれば何でもできる男なんだよ」  唯人は軽口を叩いて、俺にリンゴの刺さったフォークを握らせる。  俺は一口齧り、爽やかな甘さにほうと息を吐いた。 「お前、リンゴ好きだよな。この前飲む時のつまみだってリンゴ持ってきたのは驚いた」 「意外と白ワインとリンゴ合うんだぜ。実家に居た時、親戚の家がリンゴ農家ですげえ送ってくんの。アップルパイにしてもジャム作っても、余って。仕方ないから親父と俺で毎日剥いて食べてさ。なんかそのせいでリンゴを食う習慣みたいなのができちまったんだよなあ」 空っぽになった皿を唯人が俺の手から回収する。 「ああ、だからか。お前からたまにリンゴの甘酸っぱい匂いするもんな」 「そうか?」  唯人は頷くと、俺の唇のすぐ傍まで顔を近づけた。  キスされる。  俺の胸がどきりと音をたてた。 「ほら、やっぱり。蜜の詰まったリンゴの匂いだ」  俺は唇の触れ合いそうな距離でそう言う唯人の顔を押しのけた。 「それは今食べたばっかりだからだろ」  唯人は軽やかに笑うと、皿を持ってキッチンに向かった。  すぐに薬と水を持って戻って来る。  俺はそれを飲むと横になった。  唯人が布団を俺の肩までかけ、おでこに買ってきた冷却シートを貼ってくれる。 「おやすみ。和希」  頬を撫でながら唯人が言う。  俺もおやすみと返したかったが、もう目を開けていられなかった。 「三年か。長かったな」  眠りにつく直前、唯人が低い声で呟くのが聞こえた。  目を開けると、部屋の中は薄暗かった。  枕元の時計を見ると8時で、てっきり夜の20時かと思ってカーテンを開けると、日差しに目が眩んだ。  慌ててテレビをつけると、いつも見ている朝の情報番組のお天気キャスターが「今日は一日晴れの予報です」と満面の笑みで伝えている。  えっ、俺、何時間寝てたんだ?  昨日、唯人がきたのが昼頃だろ。  ってことは20時間も寝てたのかよ。  ぶっ続けでこんなに眠ったのは初めてだった。  しかしそのおかげか体が軽い。  まだ少し熱っぽさは残るものの、頭痛も消えていた。  唯人が買ってきてくれたリンゴ残りを皮も剥かずに齧りながら、ぼんやりとベッドに腰かける。

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