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第12話

 やっぱり唯人の言う通り、熱くらい一日であっという間に下がっちまうんだな。無理して病院に駆け込まなくて良かった。  でも保険証は探しとかないとまずいな。  そんなことを考えながら、俺はスマホに手を伸ばした。  唯人からメールがきていて、着替えの為に一旦自分の家に戻ること、また直ぐにこちらに顔をだすことが書いてあった。  送信時間は30分前で、朝まで付き添ってくれていたのだと思うと、申し訳ないような恥ずかしいような変な気分だった。 「面倒見いいよな。唯人はさ」  そう画面を見ながら呟く。  スマホを待ち受け画面に戻した瞬間、今日が金曜日だと気付いた。  結城教授の古代文明史の日だ。  結城教授は若くて授業も面白いとファンが多く、俺も毎週その授業を楽しみにしていた。  今から支度すれば、一限に間に合うかも。  スマホを見つめながら、支度にかかる時間を計算する。  俺はとにかくシャワーを浴びようと、パジャマを脱ぎながら、浴室に向かった。  なんとかギリギリ一限に間に合った。  大教室後方の、一番端の席に座り、唯人にメールを作り始める。  熱が無事下がったこと。看病してくれて助かったこと。結城教授の授業を受けるために、今は大学に来ていることなどを手早く打ち、返信する。  結城教授は穏やかな人だったが、授業に途中で遅れて入室することと、授業中に例えバイブ音でもスマホを鳴らすのを絶対に許さなかった。  授業に集中して欲しいからと初回に説明を受けていた俺達生徒は、結城教授の授業の前は必ずスマホの電源を落とすのがルールだった。 俺が電源を落とした瞬間、教室前方から教授が入室した。 「それでは、授業を始めます」  結城教授の凛とした声が響いた。 「アルファの潜在能力については、まだまだ解明されていない部分がたくさんあります。例えばピラミッド。あれは古のアルファの建築家が一晩で設計図を完成させたと文献にも記載されているんですよ。 また一部のアルファは過去、巫女的な能力を持ち、天候を操ったり、未来を予言していたなんて話もあるんです」  そこまで話すと教授はにこりと笑う。 「歴史上で、特殊な能力を持つアルファが魔法使いと呼ばれていた時期があります。私はベータなので違いますが、ここにいるアルファの皆さんの中には、魔法使いの子孫なんて方もいるのかもしれませんね」  授業を終えるチャイムが鳴り響く。 「今日はここまで。来週は北欧におけるベータ王の功績について学びましょう。以上。ありがとうございました」  生徒達も同じように礼を言い、何人かの生徒が教壇にいる教授に質問をしようと駆け寄っていく。

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