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第13話
俺はパソコンをリュックに詰めると、立ち上がった。
ふいに心臓がどくりと嫌な音をたてる。
体が熱くなり、立っていられずに、俺はしゃがみこんだ。
後ろの席だったからか、こんな俺に気付く生徒はいない。
「なんか甘い匂いしねえ?」
「ああ、果実の香りみたいな」
「もしかしてどっかにヒート中のオメガが紛れこんでたり」
「さすがにないだろー」
そんなことを話しながら、目の前を二人組の男たちが通り過ぎた。
ふいに俺の体からリンゴのような匂いが発せられている気がした。
更に体が熱くなった瞬間から、信じられないことに俺は勃起していた。
なんだよ、これ。
まるでオメガのヒートみたいな。
そこまで考えて俺はぞっとした。
あり得ない。体が熱いのは熱のせいで、勃ってるのは……そうだ。疲れマラとかそんな理由で。
とりあえずこのままでは動くことすらままならない。
熱の籠った息を零しながら、何とか立ち上がろうとしている俺の二の腕が思い切り掴まれた。
顔を上げると、見慣れたイケメンが犬歯をむきだしにして、唸るように俺を見ていた。
「唯人」
俺が呟くと、唯人は俺を無理やり立たせ、引っ張った。
「来いっ」
足が覚束ずに、転びそうになる俺を見て唯人は舌打ちすると、抱え上げた。
ほぼ走るようなスピードで校舎内を移動し、図書館を抜け、奥にある薄暗いトイレの個室に俺を抱いたまま唯人が入る。
内鍵をかけ、洋式の便器の蓋に俺を降ろした。
「和希、どうしたんだよ」
唯人の問いかけに、俺は自分のシャツをギュッと握り、上がりそうになる声を抑えた。
先ほど唯人に抱き上げられた瞬間、俺は達してしまっていた。
体の熱はそれでも治まらず、俺は唯人の声を聴くだけで、敏感な肌を柔らかい羽で撫であげられているように感じた。
「どうしたって。ただ風邪がぶり返しただけだろ。熱下がったからって、直ぐに大学になんか来るんじゃなかったな」
動揺しているのがバレないように、平静を取り繕いながら答える。
「違うだろ。それ」
唯人の言葉に俺は顔を上げた。
そこには今まで見たことない表情をした唯人がいた。
唯人が細めた目で俺を見ている。
己の唇を舐めながら、俺を見る唯人はとてつもなくセクシーで、俺はごくりと唾を飲んだ。
その瞬間、唯人の瞳が欲望で輝いた。
俺は唯人のその瞳を見た途端、恐怖で体が竦んだ。
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