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第18話
反射的に俺はうなじに手をやった。
そこには大きなガーゼが貼られていた。
「番って、俺……」
ふいにこみあげてきた嘔吐感を堪えるため、両手で口を押える。
しかし俺の口から漏れたのは吐瀉物ではなく、叫び声だった。
泣き叫ぶ俺の体を、親父が抱きしめる。
「和希。落ち着け。大丈夫だから」
「鎮静剤をお持ちします」
そう言う金沢に父は首を振った。
「必要ありません。和希、お前は強い子だ。大丈夫。大丈夫だよな?」
そう言いながら、俺の背中をゆっくりと撫でる。
俺は気持ちを落ち着かせようと意識的に息を長く吐き、目を閉じた。
フルマラソンを走りきった直後みたいに暴れていた心臓が、一定のリズムを刻むようになる。
「ごめん。大丈夫」
そう言って、俺は父親の体から離れ、距離をとった。
父はベッド脇の椅子に座ると、金沢を見上げた。
「先生。あとは私から説明します」
父の言葉に金沢が頷く。
「何かあったら、枕元のナースコールを押してください」
金沢はそう言うと、病室からでて行った。
「俺、オメガになったんだな」
そうポツリと呟くと、父親が沈痛な面持ちで頷いた。
「先生が言うには途中で性差が変わることはあり得ないらしい。たぶん和希は最初からオメガとして生まれていたのに、二度も誤った検査結果がでてしまった可能性が高いみたいだ」
「でも俺、ヒートなんて一度もきたことなかったっ」
叫ぶように言うと、父が俺の手首を握る。
「ああ、知っている。ただ20代の後半で初めてヒートを迎えるオメガも中にはいるそうだ。私もお前もこれからはもっとオメガについて勉強していかないとな」
父は無理やり笑みを浮かべて言った。
俺はまだ親父のように前向きな気持ちにはなれそうもなかった。
「それでお前の番の件だが」
俺は俯いていた顔をあげた。
「和希が目を覚ます前、唯人君と少し話をしたんだ」
「あいつと?」
俺は驚きに目を見開いた。
「唯人君は和希の意識が戻るまで、傍で付き添いたいと言っていたよ。自分の不注意でこんなことになってしまって申し訳ないとも言っていた。和希がいつ目を覚ますか分からないから唯人君には一度帰ってもらったがな」
「あいつがそんなこと言うなんて、信じられない」
俺は唯人とヤッている最中、あいつから、我慢できないなら通りかかった奴を相手にしたらいいと言われたのを忘れてはいなかった。
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