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第19話

「和希」  父が俺の手を両手で包んだ。 「お前は今色々混乱しているから、私の言葉を素直に受け入れられなかもしれない。 でも私は和希がヒートになった時、傍にいてくれたのが、彼で良かったと思っているんだ」 「親父」  咎めるような声をあげると、親父が俺の手を強く握りしめた。 「和希、聞きなさい。彼は私に対してとても誠実だったよ。 事故だったとはいえ、和希の了解も得ずに番にしてしまったことを私に謝罪して、 土下座までしようとしたんだ」  プライドの高い唯人が土下座だなんて、とても信じられない。  驚愕の表情を浮かべる俺に父親が微笑んだ。 「本当の話だよ。それとな、和希。検査の結果、お前の体はまだオメガとして完全体ではない。だから最低でも三日は続くはずのヒートが短時間で終わったんだ。エコーで医者が確認したが、お前の子宮はまだ未熟で妊娠する可能性はゼロに近いとのことだ。これから妊娠できる体になるかどうかはまだ現段階ではなんとも言えないらしい」  父は残念そうに告げたが、俺には願ってもない事実だった。  これでとりあえず、唯人の子供を妊娠している可能性はない。  今までオメガの可愛い嫁をもらうことしか考えていなかった俺は、自分が妊娠できない体だと聞かされて、ほっとした気持ちだった。 「この話は唯人君も知っている。彼はそれを聞いたうえで、お前に対して責任をとりたいと言ってくれたんだ」 「責任をとるって?」  俺は眉を寄せた。 「和希とすぐにでも入籍したいと言われた」  俺は一瞬固まり、強ばった表情で首を振った。 「俺と唯人が結婚?ない、ない。第一、俺には許嫁がいるじゃないか。ちゃんときいたことはないけど、唯人にだって婚約者の一人や二人、いるに決まってる」 「唯人君は和希と籍を入れることに関して、何にも問題はないと言っていたよ。お前と美鈴ちゃんとの関係だって、お前がオメガになったなら、もう一度考えなおさなくちゃならないのは分かるだろう?」 「俺がオメガになったことは関係ない。俺は美鈴と結婚して、彼女を守って」  そこまで話すと、興奮した俺は、大きく咳こんだ。

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