20 / 100

第20話

 父親が枕元に置いてあった水の入ったコップを手渡しする。  俺は水を飲んで、自分の胸を軽く叩いた。 「今日はここまでにしよう。色々なことが起こったから和希も疲れただろう。医者からは今日はこのまま入院して、明日体調が良ければ退院していいと言われているんだ」  父親がベッドに横になるように俺に促した。  俺が横たわると、父が布団をかぶせてくれる。 「和希。最後にこれだけは言わせてくれ。唯人君はお前がこのまま一生子供が産めないかもしれないと知っても、ちっとも動じなかった。それでも責任をとりたいと、そう言ってくれたんだ。それがどれだけ高潔な考え方か和希にだって分かるだろ?」 「悪いけど、今日はもう帰って」  父の言いたいことは分かるが、俺は到底納得できなかった。  父が沈んだ表情を浮かべながら「明日また来る」とだけ言い、病室からでて行く。  俺は布団を頭まで被ると、嗚咽を漏らさないように自分の人差し指に噛みついた。  これは夢だ。  目を閉じて、再び開けたら世界はまた元通りになっているに決まってる。  そう念じながら、俺はなかなかやってこない眠りの訪れを待った。  翌日、簡単な検査を終えて問題がなかった俺に退院許可がおりた。  実家に戻ってこいという父親にしばらく一人になりたいと頼み、自宅のマンションに送ってもらった。  正直、今親父と二人きりになったとして、どんな顔で何を話せばいいのか分からなかった。  親父はどうせ俺と唯人が上手くいくように望むだろうし、いちいち唯人と連絡をとったのかなどと探りをいれられるのも嫌だった。  帰宅して、リビングのソファに座るとようやく人心地がついた。  リュックのポケットからスマホを取り出す。  久しぶりに電源を入れると、唯人から「退院決まったら連絡が欲しい」とメールがきていた。  俺は唯人と話す気持ちになれず、メールを削除した。  他には美鈴からメールと着信があった。

ともだちにシェアしよう!