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第23話

「美鈴。こんなことになってすまないとは思ってる。でも俺のお前に対する気持ちは変わらない。俺達の関係だって」 「じゃあ誰がおじ様の会社を継ぐの?」 「父親の会社?今はそんなことどうだっていいだろう?それよりこれからの俺達の」 「どうでもよくなんかない」  美鈴が叫んだ。 「どうでもよくなんかないわよ。せっかく苦労して和希やおじ様に気に入られるように頑張ってきたのに。和希がオメガ?ふざけんじゃないわよ。また初めからじゃない」  まるで今までと別人のような美鈴の態度に、俺は啞然としてしまった。  美鈴はそんな俺の前で踵を返すと、リビングで自分のバックを手にとり、「帰る」と言った。 「待ってくれ。まだ俺達の今後について何も話していないじゃないか」  俺の言葉に、美鈴は吐き捨てるように笑った。 「私たちの関係ですって?そんなの婚約解消するに決まってるでしょ。オメガの種で孕んだ子供なんて私、産みたくないもの」  あまりの言い草に俺は言葉を失った。 「はっきり言っておくけど。私が婚約したのはアルファの和希で、オメガの和希じゃないの」 「そんなのどっちだって一緒だろ?」 「全然違う。いい?オメガの先輩として最後に和希に教えてあげる。私たちオメガはね、すごく弱いの。だから強いアルファに守ってもらわなくちゃいけないの。仕事だってろくにない。社会的にも差別される。そんな私たちは強いアルファに縋って生きるしか道がないのよ」 「俺はオメガだけど、ちゃんと美鈴のことを守るって約束するよ」  俺の言葉を美鈴は鼻で笑った。 「そんなの無理に決まってるじゃない。和希もよく言ってたでしょ。オメガはか弱いから俺達アルファが守ってやらなきゃって。今の和希にオメガを守るなんてできっこない。いい加減自覚しなさいよ。貴方はもう万能なアルファじゃないのよ」  はっきりと指摘され、あまりのショックに俺はその場でがくりと膝をついた。 「まあ、和希と番になる前だったのは不幸中の幸いだけど。やっぱり簡単にそういうことをしないで良かった……」  そこまで話すと、美鈴は俺の首を見て目を見開いた。 「和希、貴方まさか」  俺はとっさにうなじのガーゼを手で隠し、立ち上がった。 「違うんだ。これは」  美鈴が冷たい眼差しで俺を見つめ、すっと俺の首を指さす。 「和希。そのしるしをつけられた時に貴方は知ったはずよ。オメガがいかに弱いかをね」  美鈴は目線を下げると、足早に部屋から出て行った。  玄関の扉の閉まる音が聞こえる。 「違う。俺は弱くなんてない。俺は、俺だ」  何度もそう呟きながら、自分のうなじに爪を立てる。  首から感じる痛みだけが、俺に正気を与えてくれていた。

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