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第25話

 ぶすっとした顔の唯人が立っていた。  唯人は俺の許可も得ずにさっさとスニーカーを脱いで、部屋にあがる。 「正面玄関はどうやって入ったんだよ?」 「下の階のお姉さんが帰ってきた時に、一緒に入れてもらった」 「そこまでして俺が部屋に居なかったら、どうするつもりだったんだ」 「言ったろ。居るのは分かってるって。さっき外からお前の部屋の明かりがつくの見えたからな」 「ストーカーかよ。ひくわ」  俺の言葉を無視し、唯人が我が物顔でソファに腰かける。 「それで許嫁と会ったのかよ?」 「唯人には関係ないって言っただろ」 「関係なくはない。俺達は番同士だと俺も言ったよな?」 「番、番って……。そうだ。お前、親父に俺と結婚したいって言ったらしいじゃねえか。どういうつもりだよ。親父、単純だから、お前の言葉を本気にしてるぞ」 「本気で言ったつもりだけど。それとも和希は愛人ポジション希望なわけ?」 「愛人なんて嫌に決まってんだろ。誰がセカンドオメガハウスなんかに住むか」  俺が怒鳴ると、唯人の表情が険しくなった。 「悪ぃ」  流石に言ってはまずいことだったと、俺は項垂れた。  セカンドオメガハウスとは唯人の曽祖父が愛人を住まわせるために建てた大きな一軒家で、当時はそこに何人ものオメガを囲っていたらしい。  その立派な建物は歴史的建造物として、今は国が管理しており、教科書にまでその事実は記載されていた。 「上流のアルファの家ではオメガの愛人を囲うのが、何も特別じゃないことくらい俺も知ってる。だけど俺は、そんなお前の愛人の一人になるつもりないから」  オメガになった事実さえまだ受け入れられていないのに、唯人の愛人になるなんて、考えたくもなかった。  ふいに唯人がため息をつく。 「お前馬鹿か?」 「はあ?何だよ、その言い方」 「ずっと好きだった奴、愛人なんかにするわけねえだろ」  俺は言われた内容が理解できずにぽかんと唯人を見つめた。

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