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第32話

 雨音が聞こえる。  俺は二、三度瞬きを繰り返した。  雨は嫌いだ。気が滅入る。  ぼんやりとした意識でそんなことを考えていると、音が止んだ。 「シャワー借りたぞ」  ベッドの脇にパンツ一枚の姿で立っている唯人を見て、眠気が吹っ飛んだ俺はがばりと上体を起こした。  そうだ。昨日の夜ヤッて、唯人はそのまま泊まっていったんだ。 「お前、一度家に帰れば?大学行くのに、下着も服も昨日と同じじゃ嫌だろ?」 「俺そういうの気にならないから」  ふいに唯人が俺の首に触れた。 「それよりさ」  唯人の右手にはシルバーの首輪が握られていた。  俺の首にそれを巻きつける。 「ちょっとこれ試してみてよ」  唯人が俺の首の後ろで留め金をかけようとする。 「むっ、無理。苦しい」  その首輪は俺には小さすぎた。  唯人が眉を寄せ、首輪を外す。 「やっぱダメか。以前使ってたのが女性だったからな。和希にはサイズがあわないかもしれないとは思ってたんだ」 「それなに?」  聞くと、唯人がその首輪を俺に手渡した。  シルバーの首輪はずっしりと重く、こんなのをずっと身に着けていたら肩が凝りそうだ。  しかしそこに施された細工は繊細で、蔦や咲きほこる花々がモチーフとして刻まれている。 「それ、うちの一族が代々、結婚相手に贈答している首輪。結婚相手がアルファの場合も一応渡すことになっているんだ。おかしいよな」  俺はそれを聞いて慌てて唯人に首輪を返した。 「んな大切な物、気軽に試させようとすんなよ」 「言ったろ?俺は本気だって。サイズは直しておくから、使えよ」  俺は酷使したせいで痛む腰を摩りながら、ベッドから抜け出した。  病院で貰った袋を手に取り、中から黒いシンプルな首輪をだすと、自ら着けてみせた。  病院で生活の注意点が書かれた本と一緒に貰ったものだった。 「俺にはこれで十分」  そう言うと、唯人が顔を顰める。  俺はそのまま浴室にむかった。  熱いシャワーを浴びると、幾分頭がすっきりする。  唯人から渡された首輪を、受け取るわけにはいかなかった。  唯人のことは嫌いじゃないが、入籍するなんてとても考えられない。  俺は浴室の鏡に映った自分の姿をじっと見つめた。  先ほど着けたばかりの黒い首輪に触れる。  まだ自分がオメガだということだって、俺は完全に受け入れられていない。  俺は下唇を噛みしめると、鏡にむかって熱いシャワーをかけた。

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