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第37話

 食堂をでて、スマホを確認すると、親父から、今日の夕飯は一緒に食べないかとメールがきていた。  俺はそのまま実家へむかった。  家に帰って一人でいると、余計なことを考えてしまいそうだったから、親父の誘いはありがたかった。  玄関を開けると、カレーの匂いがした。  リビングに入ると、エプロン姿の親父がキッチンに立っていて、俺は目を丸くした。 「おかえり」 「ただいま。えっ、どうしたの、その恰好」 「いつも出来あいの総菜だと味気なくてな。料理の勉強を始めたんだ」  俺が実家にいたころは、親父は箸だって自分で用意しないタイプだったのにと驚きながら、いつも実家で食事をする時に座っている、四人掛けの椅子の一つに腰かけた。 「和希の作ってくれてたものと比べると、美味くはないが」  そう言って、親父は俺の前にカレーライスとレタスとトマトの簡単なサラダを置いた。  俺はスプーンでカレーを掬い、口に運んだ。 「美味いよ」  少し甘口だが、普通に美味しかった。  目の前に座った親父がはにかんだ笑顔を見せる。 「市販のルーを使っているんだけどな。隠し味にチョコレートとりんごを入れたんだ」  親父はエプロンを外すとカレーを食べ始めた。 「大学はどうだ?」 「まあまあかな」 「和希が変化したことで、色々心配したが、大学には唯人君もいるしな。彼とはうまくやっているのか?」  俺は何と答えていいか分からず、曖昧に微笑んだ。 「来週、恒例のパーティーがあるんだ」  俺は親父の言葉で食事の手を止めた。  恒例のパーティーとは親父の仕事関係の大規模な集まりで、一年に一度開催され、会社の社長等が自分の家族も連れて参加する。  後継者のお披露目の意味もあり、俺は毎年参加していた。 「今年は俺、出ない方がいいかな」  産まれてから、自分が親父の後を継ぐのは当たり前だと思ってきた。  親父もあえて言葉にはしていなかったが、俺が経済学部に進学を決めた時に大喜びしたのだから、同じ考えだったのだろう。  たがそれは俺がオメガになるまでの話だ。  あのパーティーに出席している男性のほとんどがアルファかベータで、数人はオメガもいたが、後継ぎ候補というより、自分の結婚相手を探す、どこか見合い的な雰囲気があった。

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