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第39話

「大丈夫か?」  俺はもう一口オレンジジュースを飲むとそっと口を開いた。 「親父の会社は通彦さんが継いでくれない?」  通彦さんの眉間の皺が深くなる。 「何言ってるんだ」 「頼むよ。通彦さんが最終的には海外で仕事をしたいっていうのも知ってる。でも、海外にいたって、うちの会社の社長にはなれるだろ?」  誰もオメガになった俺のことをあからさまに無視したりはしなかった。  しかし態度は以前と全く違う。  以前なら大学の専攻について質問をうけたが、今回は自分の息子と番う気はあるかと聞かれた。  料理が得意だと言えば、いつでも嫁にいけると言われる。  もう誰もが俺を後継者としては見ていなかった。 「ここにいる人たちは誰一人、オメガが社長なんかやれないと思ってる。だから通彦さん、親父の会社をよろしくお願いします」  その瞬間、通彦さんに抱きしめられた。 「和希。オメガだとか関係ない。ここにいる奴らが誰一人お前を認めなかったとしても気にするな。お前の良さは、俺が知ってる」 「通彦さん」  俺は、通彦さんのスーツの上着に縋りついた。  溢れる涙を止めることができない。 「公衆の面前で浮気とはよくやるな。和希」  低い声が聞こえ顔を上げると、そこにいたのは唯人だった。 「お前、どうしてここに」 「親父さんから聞いた」  そう言うと唯人は、俺の手首を引っ張り上げ、無理やり立たせた。 「いいか。こいつの番は俺だ。余計な手出しはするな」  唯人が吠えるように言う。 「番といっても事故のように結ばれた関係だと聞いたが。お互い納得しているのか?」  通彦さんの言葉に唯人がぐっとつまる。 「あんたには関係ない。どんな理由で番になったとしても、ヒートの時、こいつを救ってやれるのは俺だけなんだからな」  唯人は通彦さんをぎろりと睨むと、俺を会場から連れ出した。

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