41 / 100

第41話

 渋る唯人を説得して会場に戻る。  入口付近で長身の男性に声をかけられた。 「唯人。お前も来ていたのか」  男性は40代くらいのアルファだった。 「お父さん、お久しぶりです」  唯人の言葉に驚いて、俺は男性を見つめた。  まっすぐ伸びた高い鼻梁や厚ぼったい唇は確かに唯人に似ている。 「こういう集まりにお前が自主的に参加するなんて珍しいな。ちょうどいい。紹介したい人がいるんだ」  唯人の父親はそこで初めて俺に視線をむけた。 「この方は?」 「初めまして。久我山和希といいます。唯人君とは大学の同級生で」  慌てて頭を下げる俺の言葉を唯人が遮る。 「俺の番です」  唯人の言葉に父親は一瞬、顔を顰めた。 「まあ、お前もそういう年になったということだな。それより」 「お父さん。僕は大学を卒業したら和希と籍を入れるつもりです」  父親が驚愕の表情で唯人を見る。 「お前は自分が何を言っているのか分かっているのか」  父親は辺りを見回すと会場の端に唯人を連れて行った。  唯人に手首を掴まれていた俺も強制的に連行される。 「番ならいくら囲おうと構わん。だが、結婚だと?冗談じゃない。お前には婚約者がいるんだぞ」 「分かっています。近々先方には断りの挨拶に伺うつもりでした」 「そんなこと、私が許すと思っているのか」 「お父さんが許さなくても関係ありません。もう決めたんです」 「何を生意気なことを」  唯人の父親はこめかみに青筋をたてて、激怒していた。  俺はこの場にいるのが居たたまれず、唯人の手を外そうとした。  それに気付いた唯人が俺と手をつなぎなおし、ぎゅっと指を絡める。 「お父さん」  そう言うと唯人は、俺とつないでいる手と反対の手を振り上げた。  ふいにびくりと父親が体を竦ませる。

ともだちにシェアしよう!