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第43話
部屋で一人、コーヒーを飲みながら、病院から貰ったオメガについての本を読んでいた。
「番ができるとフェロモンが弱まり、アルファに襲われるリスクが軽減される」と記載されている個所を指でなぞる。俺は本を閉じると机の上に置いた。
両手を頭の上で組む。
自分がオメガになったことを認めたくなくて、唯人には随分八つ当たりをしてしまった。
でも、もしあの場にいたのが唯人でないアルファだったら、そしてもし唯人以外の人間に無理やり番にされてしまっていたら。
俺は今よりずっと悲惨なオメガになっていただろう。
そう考えられるくらいには唯人が自分のことを大切にしてくれているのは分かっていた。
まあ、多少強引だけどさ。
これで俺がちゃんとあいつを好きだと思えたら、話は簡単なんだろうけど……。
点けっぱなしのテレビでは、モデルの水着姿の女の子がビーチボールを片手に、プールサイドで微笑んでいた。
引き寄せられるように俺の視線はそのまん丸い谷間に固定された。
やっぱり俺、おっぱい好きだし。
ふいにスマホが鳴り、画面を見ると唯人からの着信だった。
今のやましい妄想を咎められたような気分で、俺はコホンとひとつ咳をすると、通話ボタンをおした。
「何?」
「や、遊びの誘いだったんだけど、機嫌悪い?」
思ったよりも低い声で応答してしまい、俺は慌てて否定した。
「いや、ごめん。ちょっと眠かっただけ」
「寝てたなら、こっちこそごめん。実は今日の夕飯大学の友達らで集まるから、お前も来ないかって思ったんだけど」
俺はしばし考えた。
今夜は特に予定もなかった。
オメガになっても変わらずに生活しようとは思っているものの、どちらかというと引きこもりがちだった。
もしかして唯人はそんな俺を心配して連絡をしてくれたのかもしれない。
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