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第45話
「ねえ、唯人。番を作ったって聞いたけど、本当?」
「ああ」
「いいなあ。私も唯人の番になりたい。だめ?」
ロングヘアを綺麗にカールさせた女性のオメガはそう言うと、いきなり唯人の股間に触れた。
唯人は眉をぴくりと動かすと、手に持っていたワイングラスの中身を女性の顔にかけた。
「きゃあ」
「俺の番は永遠に一人だけだ」
その場の空気が凍りついた。
俺は突然始まった修羅場に唖然として、固まってしまう。
ふいに唯人が顔を上げた。
俺を見つけて、破顔する。
「和希」
名前を呼ばれた俺はぎくしゃくと唯人に近づいた。
腕を強く引かれ、俺は唯人の膝の上に抱えられた。
「ちょっと。おいっ」
「会えて嬉しい」
唯人はそう言うと、俺をぎゅっと抱きしめた。
「昨日も大学で会っただろ」
俺は目の前の唯人の肩をぽんぽんと軽く叩く。
ふいに視線を感じ、顔を上げると青ざめた顔でこちらを見つめるオメガの女の子と目が合った。
美鈴だった。
俺の前では一度も着たことのないような胸がこぼれんばかりに開いたミニのワンピースを身に着け、目元に濃いアイシャドーを塗った美鈴は、年齢よりも上に見えた。
まるで別人みたいだ。
そう思って俺が凝視していると、美鈴が顔を赤らめてぱっと下を向いた。
「それでも会えて嬉しいんだよ。ああ、和希の匂いだ」
唯人が混乱した俺の気持ちも知らずに、俺の首筋に顔を埋め、うっとりと囁いた。
これでここにいる誰もが唯人の番が俺だと気付いただろう。
「好きだよ。和希」
甘やかな表情で唯人は言うと、俺に口づけようとした。
俺の視線はまだ美鈴に留まったままだった。
嫌だ。
体が勝手に動き、唯人の頬を叩いてしまう。
乾いた音がなり、「痛って」と唯人が顔を顰める。
俺は唯人に美鈴を紹介したことはなかった。
唯人は自分の隣に立っているのオメガの一人が、俺の元許嫁だとはもちろん知らないだろう。
例えそうであっても、美鈴の前で女のように扱われ、キスを受けるのは俺のプライドが許さなかった。
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