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第49話
「三菱(ミツビシ)」
俺が名を呼ぶと三菱はにかっと笑った。
「よお、久我山。隣いいか?」
俺が頷くと、三菱は俺と同じカツカレーにスプーンを突っ込んだ。
「この前は唯人が悪かったな。俺がオメガに変わったばかりだから、あいつもなんかピリピリしててさ」
俺はつい唯人を庇うような発言をしてしまう。
「いや、全然いーよ。俺も久我山の気持ち考えてなかったって、反省したんだわ」
三菱が俯き、頭を掻く。
「気にすんなよ。誰だってアルファからオメガになった、なんて奴が身近にいたら、色々聞きたくなるの分かるし」
三菱がはにかんで笑う。
「そう言ってくれると助かる。それでさ、今日ゼミの奴らと飲もうってなってんだけど、久我山も来ねえ?」
ここのところ唯人が俺にべったりだったし、友達と唯人抜きで飲むのは久々だった。
俺は自然と口角があがる。
「行きたいっ」
前のめりになって言うと、三菱が笑う。
「OK。じゃあ、駅前の商店街の中にある「おたふく」で19時な。あそこで三井のやつバイトしてんだよ」
「分かった」
「じゃあ、あとでな」
さっさとカレーを食べ終えて、三菱が席を立った。
俺は久しぶりに明るい気持ちになって、カレーの残りを食べ始めた。
19時に「おたふく」の前に着いた俺は首を傾げた。
いつもかかっている赤い暖簾が出ていない。ガラス戸も閉められたままだった。
ふいに扉がスライドし、三菱が顔をだした。
「そろそろ来る頃だと思ってたんだ」
三菱が俺を店内に手招きする。
中の座敷には見知ったゼミ仲間の5人が並んでいた。
しかし店内に他の客の姿はない。
「なあ、今日って店やってねえの?」
もう酒が入っているのか、三井が笑いながらジョッキを掲げた。
「今日、ここのオーナー夫妻、結婚30周年だかの旅行いってんの。で、俺が友達と飲むって言ったら、店のもん壊さなきゃ、好きなだけ酒、ただで飲んで良いって言われてさ」
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