5 / 115

 国中から魔術師の素質を持った子供を集め、彼らを養成する機関。  それが『魔術師の塔』だった。  『塔』という名前でひとくくりにされているが、その実態は大きな学園だ。敷地内の中央にそびえ立つのが本塔であり、校舎。まるで空に挑むがごとく高い塔だ。  正門が南側、中央塔を囲うようにして、東、西、北に1つずつ――計4つの塔が建てられている。  そのうち東の塔は学生寮にあたる。  召喚の儀式を終え、セシルはとぼとぼと学生寮の廊下を歩いていた。 (僕は……これからどうなるのか)  セシルがこの学園にやって来たのは15歳の時だった。  それから1年の見習い期間を経て、16歳――ディアンハルト国では成人と扱われる年齢――になると、召喚の儀式を行い、正式に入学という扱いになる。  魔術師の素質があるかどうかは、その者に魔力があるかどうかで判定される。その点、セシルは魔力量には問題がなかった。  だが、少年には徹底的に魔術の才能(センス)がなかった。どんな術を使っても、失敗ばかりしてしまう。いつしか『能無し』セシルと呼ばれるようになり、周りからは馬鹿にされてばかりだった。  それでも、セシルが学園から放り出されなかったのは、『バルト家』の名が大きいだろう。父は世界でも有数の魔術師。また、実家からは多額の寄付金を学園に納めている。だから、学園もなかなかセシルに見切りを付けることができない。  そのせいで、セシルはますます周囲から疎ましく思われていた。『家の名を盾にとりやがって。本人は落ちこぼれのくせに』といった具合に。 (僕だって……好きで、落ちこぼれになったんじゃない)  セシルはこれからのことを考えた。  今回の失敗ばかりは挽回できないだろう。  魔術師には必ず、1体の妖魔(ジン)が仕える。妖魔を持たない魔術師なんて聞いたことがない。だが、セシルは妖魔との契約に失敗した。  退学処分、という言葉が脳裏をかすめる。セシルの胸を深々と突き刺し、目頭が熱くなった。 (そんなのは嫌だ……僕は父様のような立派な魔術師になりたい)  考え事をしながら歩いていたセシルは気が付かなかった。  前をふさぐように差し出された、誰かの脚に。 「わっ」  目の前が揺らぐ。次の瞬間、セシルは派手に転んでしまっていた。  手をついて、顔を上げると。 「おい、どこへ行くんだ? 『能無し』セシル」  にやにやとこちらを見下ろしているのは、1人の少年だった。  前髪を長く垂らした金髪に、意地の悪そうな緑の目。鼻の頭にはそばかすが浮かんでいる。 「……ティハ」  セシルは眉を寄せ、苦々しい口調でその名を呼ぶ。  彼の隣には2人の少年が控えていて、媚びを売るように言った。 「ティハさん、引き留めたら悪いですよ。こいつは今から部屋に帰って、大急ぎで荷物をまとめなきゃならないんですから」 「はっ、そうだったな」  取り巻きの台詞に、ティハは満足そうに笑う。 「ここは魔術師を育てるための施設だ。魔術師でない人間は、さっさとお家に帰らないとな」 「でも、帰る場所なんかあるんですかねー。こいつに」 「こいつのご自慢のお父様も、今回ばかりは呆れ返っているにちがいないですよ。何せ、妖魔(ジン)にそっぽを向かれる魔術師なんて、前代未聞!」  3人は一斉に吹き出した。セシルは頬を染め、 「黙れ!」  と、言い返す。 「契約はたまたまうまくいかなかっただけだ! それに、召喚自体には成功した。ちゃんと妖魔を呼び出せたんだから、僕は魔術師だ」 「召喚したって、最弱の『ビースト』じゃねえか。今時、ほとんど見かけねえ、愚鈍な『獣』」  せせら笑いを浮かべながら、ティハは手を返す。妖魔の名前を唱えた。  すると、光の粒子が降り注がれる。  ティハの掌には妖精が乗っていた。

ともだちにシェアしよう!