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 ティハの妖魔(ジン)――『フェアリー』タイプの【シルフィード】だ。  取り巻きの少年たちもそれぞれに妖魔を呼び出す。こちらは【ミノタウロス】と【リザードマン】。どちらも『ファントム』タイプだ。  くすくす――鈴の音を鳴らすような笑い声が聞こえてくる。もちろん、ティハたちではない。彼の手の中からだ。 「そんなにいじめちゃ、かわいそうよ~。ティハ」  ティハの手に乗った妖精が、口元を両手で押さえながら忍び笑いを漏らしている。 「弱い者いじめってよくないわ~」 「別にいじめちゃいねえよ。現実を教えてやっていただけさ」  ティハは目元を歪めると、セシルを見下ろした。 「ここは国内最高峰の魔術師養成機関だ。お前みたいな、妖魔(ジン)も従えられねえ人間なんてお呼びじゃねえんだよ」  と、足を振り上げ、セシルの背中を踏みつけようとする。セシルは身体を回転させて避けた。転がった勢いで上半身を起こす。 「妖魔(ジン)天上世界(アスガルド)から召喚できるのは、魔術師だけだ。僕だって召喚は成功したんだ」 「じゃあ、お前の妖魔は今、どこにいるんだ? ほら、呼び出してみろよ」 「う……」 「従えられてないなら、いねえのと同じだろうが!」  ティハは再度、足をくり出し、セシルを蹴り上げようとする。  が、その直後。 「やめなさい」  涼やかな声が割って入った。  こちらに歩み寄ってくるのは、ローブ姿の男だった。教師の1人だ。  ティハたちは舌打ちをして、慌てて逃げ出す。  男はその背を呆れたように見送ってから、セシルへと声をかけた。 「大丈夫ですか? セシルくん」  セシルは男の顔を見上げた。  年の頃は40代前半といったところか。穏やかな顔つきをしている。長い茶髪を1つに束ね、同色の双眸は優しげに垂れ下がる。鼻先にかけている丸い眼鏡が、彼の朴訥とした雰囲気を増長させていた。 「フェルナンド先生」  セシルはぱっと顔を輝かせた。 「ティハくんにも困ったものですね。後で注意しておきましょう」 「……すみません」  からかわれている現場を見られてしまったことが恥ずかしく、セシルは小さな声で言った。  フェルナンドはセシルと目を合わせ、ほほ笑んだ。彼がほほ笑むと、周りの空気までもが和らぐような気がする。 「周りに何を言われても気にしてはいけませんよ。失敗は誰にでもあります」 「はい。でも……その」  そこで先ほどまでの悩みを思い出し、セシルは面を伏せた。 「僕……これからどうなるんでしょうか……」 「そのことですが――」  フェルナンドは柔らかな相貌を曇らせ、言いづらそうに告げる。 「魔術師が妖魔と契約を結べなかったという前例はありません。このままだと退学処分は免れないでしょう」  セシルは蒼白となって、言葉を失う。  わかっていたことではあるが、はっきりと言われたらショックだ。 「ですが、君が妖魔と契約を結べなかった理由も不明です。そのため、特別処置として猶予期間がもたれました」 「猶予……ですか?」 「はい。これから1か月の間に、君の妖魔――あの【ダイアウルフ】と契約を結んでください。そうすれば、退学はなしです」 「1か月……」  セシルは呆然とその言葉をくり返した。  フェルナンドは優しく頷いて、 「君はあの妖魔を天上世界から召喚できた。魔術師にとって妖魔は一生の友です。大丈夫、君もあの妖魔ときっと友達になれます」  と、ほほ笑む。すると、セシルの心はじわじわと安堵感に包まれた。 「はい。僕、やってみます。あの妖魔に僕のことを認めてもらいます」

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