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 その日の夕方のことだった。 「今日、兄さんの妖魔(ジン)と会ったんだ」  セシルは授業が終わると、『儀式の間』を訪れていた。  そこで【ダイアウルフ】と話をするのが日課になっていた。狼は何の反応も返してくれないので、いつもセシルが独り言を言うだけではあるが。 「兄さんの妖魔は『ドラゴン』で、人化できるんだ。正直、羨ましかった。お前も『ドラゴン』だったらよかったのに」  どうせ何を言ってもわからないだろうと、本音をこぼす。  狼はまた無反応を貫くのだろうと思っていた。だが――  「……はっ」まるでバカにするような声が漏れた。  セシルは目を丸くして隣を見る。銀狼がこちらに顔を向けていた。 「『ドラゴン』だって? あんな狡猾な連中のどこがいいってんだ」 「え……」  セシルの思考は停止した。 (待て……僕の頭がおかしくなったのか? だって……)  驚きすぎて声も出ない。  すっかり固まっているセシルの前で、銀狼は更に口を開く。 「どうした? 俺が話せるのが意外だったか? そりゃそうだろうな。言葉が理解できないと思って、いろいろと好き放題に言ってくれてたもんな?」 「なっ……」  セシルは思わず、後ずさる。  夢でも見ているのかと思った。  だが――信じられないことは、まだ続いていた。 「あんまりに下らないことばっか話すもんだから、聞き流してただけさ」  狼が意地悪そうに笑う――次の瞬間。  体が光に包まれ、変化していく。四足歩行から二足歩行になり、大きな体はすっきりとした輪郭へと。  光が消えると、そこには1人の青年が佇んでいた。 「わっ」  セシルは後ずさろうとして――足が絡まって、尻もちをついた。  震えながら、顔を上げる。 「な……何で……!」  頭の中がこんがらがっている。  少年は混乱して声を張り上げた。 「何で半裸なんだっ!?」  いや、そこじゃない。  少年の中で冷静な自分がツッコミを入れる。  眼前に立つのは銀髪の青年だった。  長い髪に、金色の野性的な目。首元にはチェーンのようなものをかけている。執事然としていたライナルトとは何もかもが対照的だ。美形ではあるものの、よく言えば男らしく、悪く言えば荒々しい雰囲気だ。  何より目を引くのがその装い。  上半身が裸なのだ。よく鍛えられた体がさらされている。下はきちんとズボンを履いているものの、肌色の多い装いは坊ちゃん育ちのセシルには刺激が強い。 「あ?」  セシルの問いかけに、青年は虚をつかれた顔をする。 「体が締めつけられるのは好きじゃない」 「そ、そうか……」  元が獣だものな、と納得してしまってから。 (いや、そうじゃないぞ、僕!)  初めに聞くべき点はそこではない。

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