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 ふらつく脚に力をこめて、立ち上がる。  すると、ティハは嫌そうな表情をした。 「ちっ……しつこいんだよ。まだ続ける気か?」 「ティハ、これ以上、続けるのは彼にとって酷ではないかしら」  妖精のリリがくすくすと笑いながら告げる。 「一思いに楽にしてあげるのはどう?」 「いいこと言うじゃねえか、リリ」  リリに視線をやり、ティハはにやりと笑う。  そして、酷薄な面持ち浮かべ、セシルと向き合った。 「最後まで負けを認めなかったお前の責任だからな」  呪文を唱える声。風が唸りを上げる音が聞こえてくる。先ほどよりも勢いがある。直撃したら、ただでは済まない。  だが、セシルは力強い眼差しでその風刃を見据えた。 (諦めない! 僕は最後まで……諦めたくはない……!)  例え、『能無し』で『落ちこぼれ』だろうと。魔術師の素質がなかろうと。  最後まで立ち向かう――それが少年の矜持だ。  セシルは最後の力を引き絞り、呪文を唱えた。 「≪空間よ・彼の地につなげ≫!」  それは呪文というよりも、祈りのような叫びだった。  その瞬間。  ふわりと少年の周囲を風が取り巻く。その風が少年の姿を覆うと、セシルの姿を隠した。 「何……っ!?」  ティハが慌てる声が聞こえてくる。  セシルの姿が消えたのだ。  ティハはすばやく視線を走らせる。だが、少年の姿を見つけることができない。  と、その直後。  ティハの側面に現れた影。ティハがそれに気付くよりも早く、衝撃が彼の身を襲った。  広場に殴打音が響き渡る。  目を白黒とさせながら、ティハはよろめく。その眼前にセシルは降り立った。  瞬間転移の術『テレポーテーション』。セシルの唱えた術は成功した。ティハの側面に転移し、少年の頬を殴りつけたのだ。 「どうだ! 一発、かましてやったぞ!」  『おおっ』と、どよめきが走った。観客たちは唖然としている。  ティハは何が起こったのか理解できないという表情を浮かべていた。呆然と自分の頬をこする。やがて険しい目付きへと変わり、すさまじい形相を浮かべた。  セシルの体を勢いよく突き飛ばす。 「この……ぶっ殺してやる! リリ、やれ!」 「え? でも、ティハ……」  と、リリが戸惑った様子で告げる。 「それだと、約束がちがうんじゃない? あの子が一発でも入れたら、あの子の勝ちだって……」 「うるせえ!!」  ティハは血走った目でリリを睨みつけた。 「俺がやれって言ったらやるんだよ! 俺はお前の主人だぞ! お前は黙って、俺の命令に従っていればいいんだ!」 「……わ、わかったわ」  リリは気圧されて、渋々と言った様子で頷く。  そして、風を作り出した。 「≪突風よ・敵を切り裂け≫!」  詠唱の声が、セシルの朦朧とした頭に響く。  ああ、きっと僕はこのまま死ぬのだろう、と思った。 (母様……期待に応えられなくて……こんな落ちこぼれでごめんなさい……)  抗う体力も気力も残っていない。  己の運命を受け入れ、セシルはぼんやりとその光景を見やった。  風刀が迫りくる――その寸前。  かすんだ視界に何かが映る。  それは薄闇の中で銀色にきらめく―― (……お前は…………)  思考が鈍くなっていく。  セシルの意識はそこで途絶えた。

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