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 一方。  賑やかなパーティー会場とは対照的に、学生寮は閑散としていた。学生たちは皆、パーティーに参加しているので人気(ひとけ)がないのは当たり前のことだ。  だが、それを知らずに待ち続けている子狼が1匹いた。 (……小僧。帰ってこないな)  レヴィンはまるで忠犬のごとく、セシルの部屋の前でちょこんとおすわりしていた。そのうちに待ちくたびれて、扉の前を行ったり来たりしてみる。  昼間、ひょんなことから少年の秘密を知ってしまったレヴィンは、「主張を変えるつもりはないが、言い方が悪かったことは謝ろう」と思い直して、セシルの元を訪れたのだった。  だが、いくら待てどもセシルは帰ってこない。 (仕方ない。少し探って(・・・)みるか)  レヴィンは窓際へと走り寄り、跳び上がった。上半身を引っかける形で窓枠につかまり、後ろ足をじたばたと振って、その上に乗る。開いていた窓からは夜の冷ややかな風が吹きこんでくる。  窓枠に座ると、レヴィンは両目をつむり、神経を集中させた。  風が変化した。一方向に吹きつけるだけだった風が向きを変え、まるで狼を取り巻くように集まり出す。  次の瞬間、様々な声がレヴィンの耳に入ってくる。 『ちょっと押さないでよ!』 『お嬢さん、僕と一曲どうですか?』 『ねえ、あの先生ってさ……』 『なあ、この間の返事を聞かせてくれよ!』  無秩序な言葉が一気に流れこんでくる。その情報量の多さに、レヴィンは顔をしかめた。 (……さすがにこう範囲が広いときついな)  風属性の魔術『ウィンドウィスパー』。風を通じて、範囲内の音を拾う術である。風を操る高度な魔術であり、これを使えるのは妖魔の中でも『ドラゴン』タイプだけだ。通常、妖魔は4元素で構成されている自分の体を分解することで、火や風を作り出す。自分の体以外の4元素を操ることができるのは『ドラゴン』のみだった。  幾多の音がレヴィンの頭の中で激流のように過ぎ去っていく。  レヴィンはセシルの声に的をしぼって、情報を精査していくが、なかなか引っかからない。そのうちに頭が限界を迎えて、レヴィンは一度、魔術を止めた。あの少年はあまり口数が多い方ではない。セシルの声だけをとっかかりに探すのは難しいようだった。  思考の末、レヴィンは嫌々と、「ジャン・フェルナンド」の項目を検索に含めることにした。  再度『ウィンドウィスパー』を起動する。 『そういえば、フェルナンド先生……』 (見つけた!)  その名が含まれた会話を見つけ出し、レヴィンは両耳をぴんと立てた。意識をその会話に集中させる。 『今年もやる気か? 新入生狩り』 『そりゃやるだろうな。あの人のあれはもはや病気だよ。とはいえ、俺たちだって、そのおかげでおこぼれをもらえてるんだ』 『毎年、好みの新入生を見繕って……それで今までよく問題にならなかったよな。ま、よっぽど立ち回りが上手いんだろうが』 『相手は誰でもってわけじゃないみたいだがな。身寄りがないか、家の位が低い学生を狙ってやがるからな。だけどな、今回は大物らしいぜ。何せ相手はあのバルト家の息子だ』 『バルト家! おいおい、すげえところに目を付けたな。あんな豪族の子に手を出すなんて、大丈夫か? ばれたら大事(おおごと)だぞ?』 『大丈夫だろ。狙うのは優等生の方じゃなく、落ちこぼれの方だ。あのガキ、この1年、家に帰ってねえみたいだからな。とっくに家からも見放されてる』  会話が途切れた。レヴィンの集中力が切れて、術が止まってしまったのだ。  レヴィンは顔をしかめる。今聞いたことに衝撃を受けていた。 (バルト家……落ちこぼれの方……間違いない。小僧のことだ)  話の内容からして、フェルナンドはやはりセシルに目をつけていた。そして、その実行日が今日だったのだ。  そのことに気付いて、レヴィンは一も二もなく窓から飛び出した。  セシルが危ない――そう思うと、体が勝手に動いていた。

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