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 『魔術師の塔』では授業が休みとなる日がある。週に1度の安息日だ。  その日になると、学生は街へくり出したり、自室でのんびりとしたりして、自由に過ごす。  セシルの安息日の過ごし方は決まっていた。  まず、朝は授業がある日と同じ時間に起きる。顔を洗って、私服に着替えて(この間までセシルの着換えを覗こうとばかりしていたレヴィンは、最近はセシルが言わなくてもなぜか自分から外に出る)食堂に行く。朝食をとったらそのまま自室には戻らずに、西の塔――図書塔に向かう。そこで1日、本を読んだり、自習をしたりして過ごすのだ。 「なあ。他の連中は、そろって外に出るみたいだぜ?」  西塔に向かう途中で、レヴィンが言った。ちょうど南門の前を通りがかった時だ。見れば、多くの学生がうきうきとした表情で、南門へと向かっていた。  レヴィンは子狼の姿で、しっぽを左右に振りながらセシルの隣を歩いている。 「あんたは街に行かないのか? 楽しそうじゃないか」 「……行かない」  と、セシルは少しだけすねて、答えた。 「街に興味がないのか?」 「だって……一緒に行く人がいない……」  唇を尖らせて、小さな声で言う。  言うと悲しくなるから、聞かないで欲しかった。セシルは内心でしょげかえる。  すると、レヴィンは心外とばかりに声を上げる。 「おいおい。俺がいるだろ!」 「お前と……?」  セシルはレヴィンに視線を落とした。  少しだけ想像してみる。セシルの想像の中では、レヴィンは狼の姿ではなく、人間の姿をしていた。それで一緒に街を歩いたり、店を覗いたり、出店でお菓子を買って、広場で食べたりするのだ。  想像していると、何だか頭の中がふわふわとしてきた。楽しそうだと思った。が、その反面、なぜか急に恥ずかしくなってしまう。  セシルは頭を振って、想像を追いやった。 「お……お前とは行かない!」 「何でだよ……」  ぷいっと顔を背けて、セシルは早足で西塔へと向かった。

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