109 / 115

 セシルたちが中央塔の前へと舞い戻った時、日は沈みかけていた。  異様なほどに辺りは静かだ。普段は活気に満ちている学園の風景は、今や朽ち果てた廃校のような哀愁が漂っていた。 「僕とレヴィンだけで行く」  セシルが始めそう言った時、エルムたちは猛反発した。  しかし、セシルがその理由を話すと渋々ではあるが、納得したようだった。  狼となったレヴィンの背にセシルは乗る。テゼールが改まって告げた。 「フェンリル様……。セシルのことをよろしくお願いします」 「ああ。任せておけ。傷1つ負わせねえさ。嘘だったら俺のことを殴っていい」 「それなら俺も殴るぞ」 「あ、では僕も。ついでに」 「おいコラ」  ちゃっかりと便乗したエルムとライナルトをレヴィンが睨む。セシルは笑ってしまった。テゼールも思わずといった様子で口元を緩めている。  決戦前とは思えないほどの和やかな空気が辺りを流れた。  レヴィンが体を翻して、塔へと向き直る。 「行くぞ、セシル」 「うん」  セシルはとっくに決意を固めている。  不思議なことにまったく怖さを感じなかった。これから対峙するのは神だというのに、心は落ち着いている。  それはレヴィンがそばにいてくれるからだ。この銀狼が自分の前からいなくなってしまうかもしれないという恐怖に比べたら、神と敵対することくらい何でもない。  レヴィンが脚に力をこめて跳躍する。風を足にまとわせて、壁を登り始めた。  セシルは振り返って、エルムたちに手を振った。エルムたちが手を上げる――その姿があっという間に見えなくなるほどに素早くレヴィンは駆け上がっていく。

ともだちにシェアしよう!