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第7話

 遊び? と鸚鵡返しに繰り返すと、天音はくすりと笑った。唇の前で人差し指を立てて言葉を継ぐ。 「ベッドでのつき合い限定の仲。姉さん……里沙には内証にしておいてください」  ゲンマン、と左手の小指が差し出された。つられて小指をからませると、天音は重々しくうなずいた。 「ところで『くん』づけで呼ばれると背中がむず痒くなります。ですから『天音』──と呼び捨てで。義兄さんのことは、どう呼びましょうか。義兄さん、桧垣(ひがき)さん、あるいは晶彦(あきひこ)さん……ご希望は?」 「そうだな、義理とはいえ兄弟だ。フランクに晶彦と呼び捨てにしてくれてかまわない」    真顔で応じたとたん、天音は噴き出した。おかしくてたまらないといいたげに、笑みこぼれた。  わたしは憮然と眼鏡を押しあげた。ともあれ天音につづいて三和土(たたき)に入る。玄関ホールは吹き抜けになっていて、鈴蘭形の火屋(ほや)が組み合わさったシャンデリアが下がっている。  二階を仰ぎ見ると、回廊に沿って、数枚の扉が等間隔に並んでいるさまが窺えた。  ホールの真正面に年代物のグランドファーザー・クロック。その隣に階段。ゆるやかな螺旋を描き、手すりは飴色に光っている。  庭に面した居間に通された。湖が借景になっていて開放感がある。  日本書紀を題材にしたレリーフが壁一面にほどこされていて、床は寄せ木造りというぐあいに、つくづく創作意欲をかき立てられる家だ。  風がそよ吹き、カーテンを揺らす。  天音はゴブラン織りの安楽椅子に、わたしは猫足のソファにそれぞれ落ち着いた。頃合いを見計らって、扉をノックする者があった。  どうぞ、と天音が応じた。五十がらみの女性が茶器を載せたワゴンを押して入ってきた。 「家政婦の江口さん。週に二回通ってきて家事全般をやってくれています。晶彦さんがここに泊まっている間に会うのは、さっきの哲也と、この江口さんくらいですね」    無口な女性だ。アイスティのグラスとクッキーを盛りつけた皿をテーブルに並べると、一礼したのちに早々に立ち去った。

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