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第18話

 人形、と間の抜けた相槌を打つと、天音はわたしを二階に案内した。彼につづいて西翼の廊下を奥へと進む。  招じ入れられた部屋は、工房というおもむきがあった。部屋の中央に作業台が鎮座し、何に用いるものなのか、L字型をした金具やサンドペーパーといった道具が整然と並べられていた。  驚いたことに、小ぶりの窯まで据えつけられている。その隣に足踏み式ミシン。  天音は衣装も自分で作っているとみえて、フリルをふんだんにあしらったドレスが、しつけ糸をかけた状態でミニチュアサイズのマネキンに着せかけられていた。  造りつけの棚が北側の壁を占め、そこに素焼きの段階にある人形の頭部と手足がパーツ別にずらりと並んでいるさまは、壮観だ。  わたしは部屋中を見て歩いた。ガラス壜を手に取り、そこに収められた球体のものにぎょっとした。 「……心臓に悪いな、本物の目玉かと思った。これは、人形用の義眼なんだな」 「そうです。眼球をはめ込んで……言いかえれば魂を吹き込んでやって、人形は初めて完成します」  そう言うと、天音は木箱を作業台に置いた。外箱式の蓋を取り去ると、一体の人形が寝かされていた。  ボンネットをかぶり、梯子レースの豪奢なドレスをまとった少女人形が……。 「これは、すごいな。これが天音く……いや、天音の作品なのか?」 「作品は大げさですよ。でも、そうですね。この()はわりと自信作かな」  心もち頬を染めると、天音は人形を抱き上げた。失礼、と断って、わたしはドレスの裾をめくった。 「レースを一段ずつ、かがってあるのか。気が遠くなる作業だな。これは、受注生産なんだろうね」 「里沙に言わせれば〝下手の横好き〟。でも奇特な方が注文してくださるので、オーダーを承ってます」 「下手の横好きどころか、立派な芸術作品だ。こういう人形は、どうやって作るんだ」

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