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第31話

 天音は幹にしがみつき、背後からうがたれていた。胸がはだけ、ジーンズと下着が足首でたぐまっていた。  細腰(さいよう)を抱え込まれて、突きしだかれるというしどけない姿をさらしながらも、頬が桜色に上気して匂い立つようだ。  短いつき合いだ。利いた風な口をきくのはおこがましいが、わたしが知るかぎり天音は表情に乏しい。始終、穏やかに微笑んでいるが、それは仮面をつけているように見えて、彼が創る人形よりよほど人形めいてみえる。  その天音が、男に抱かれているときはあられもなくよがり声を放ち、怜悧な(おもて)に蠱惑的な表情を浮かべるのだ。 「あ、あ……あっ、そこ……っ!」  天音がのけ反り、髪を振り乱す。首をねじ曲げると、哲也の頭を抱え寄せて唇を重ねていく。  鼓動がうるさい、酸素が薄まったように胸苦しい。わたしは、そろそろと後ずさった。  そうだ、即座に立ち去るのが礼儀というものだ。そう、ここに来合わせたことがバレないうちに急いで。  出歯亀野郎、と天音に軽蔑される前に、ただちに……。  だが、その場に釘づけになる。哲也が突き上げるたびに淫靡な水音がくぐもって、わたしを呪縛する。  なまめかしく腰をくねらせる天音から、片時も目が離せない。  シャツの裾がはためき、蜜にまみれたペニスが見え隠れした。ごつい指が、妖しく濡れ光る穂先に絡みつき、すると雄を銜え込んだそこが連鎖的に狭まるようで哲也が低く呻いた。 「すげぇ……(なか)がきゅうきゅう締まって、俺のをがっついてる」 「しゃべる余裕があるなら……動、け……くっ!」  艶っぽい声でそう命じると、天音は腰を揺すり立てて自ら交わりを深めた。  唇が乾くのか、しきりに舐めて湿らせるたびに舌が閃き、劣情をそそるその光景が、わたしに慎みというものを忘れさせる。  わたしは小さく舌打ちした。ここは角度が悪い、肝心のところが見えづらい。  誘惑に屈して、膝でにじった。荒々しく律動を刻むふたりを斜め後ろから盗み見る位置に回り込む。

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